第47話 戦後処理
ヴォルガニア王たちとの交渉を終えた後、俺達はあっという間にヴォルガニア全土を掌握した。
ヴォルガニア王が壊れて……いやシャルロッテに傾倒してしまったようで、彼の説得によってほとんどの都市が無血開城してしまったのだ。
本来ならばあり得なかっただろう展開だ。仮にヴォルガニア王を討ち取っていれば、嫡男辺りが継いで徹底抗戦していただろう。
……いやどうだろうな。ヴォルガニアは俺達によって、ほぼ全軍を失ったのだ。抵抗したくても出来なかったかも。
ただ何にしても抵抗が少なかったのはよかった。ヴォルガニア王が生きていながら、俺達に無条件降伏したのは影響があっただろう。
ただ一部の家臣は従わずに都市に籠ったので、そいつらはさっさと倒したが。
そうして俺はヴォルガニアの王都、いや元王都の元王城の玉座に座っていた。
「うん、座り心地がいいな!」
座った理由? そりゃ座ってみたいからに決まってるだろう!
なんたって玉座だぞ! 超豪華に装飾された椅子なんて、座ってみたくなるに決まってる!
「フーヤ様、玉座がお似合いです!」
シャルロッテがたぶん褒めてくれているのだろう。
玉座が似合いということは、つまり王様のような貫禄があるということだ!
「そうだろ? いっそこの玉座もらって帰りたいくらいだよ」
座り心地いいしな! いや流石に無理だけど。
「お戯れを。玉座など持ち帰っては、セリア女王陛下への謀反を示したと勘づかれる恐れがあります」
輿に乗った綾香が小さくため息をついた。
やはり玉座には特別な意味があるようだ。すこし軽率な発言だったか。
「ですが主様のお気持ちは分かっておりますので」
「ははは。他の皆の前では気を付けるよ」
俺に謀反の気ありと、誤解を受けて報告されても困るからな。
信用できない者の前では、これまで以上に発言を気を付けることにしよう。
「さてと。じゃあ俺は王都ラレンティアに戻って、セリア女王陛下に報告などしてくる。綾香とシャルロッテはしばらく元ヴォルガニア領の統治を頼む」
俺の言葉に綾香が顔をしかめた。
「承りましたが……人手が足りません」
「…………そうだよな」
我が国は致命的な問題が発生している。
人手、官僚不足だ。ぶっちゃけヴォルガニア侵攻前ですら、内政要員が足りていなかった。
その上で旧ヴォルガニア領土まで統治するなど無茶ぶりである。
だが迂闊に変な奴を臣下にしたら、裏切られたり治安が悪化する恐れもあるからなぁ……。
「一応、元ヴォルガニア王の臣下たちの一部は雇えるとのことですが……」
「あいつらは旧ヴォルガニア領の役人にはできない。民と結託して謀反でも起こされたら面倒だ」
元ヴォルガニアの臣下たちならば、うまく政治を回すことはできるだろう。だが支配していた土地だからそのまま任せる、というのは愚策だ。
何故なら彼らはこの土地の民と仲がいいからな……裏切られたら厄介だ。基本的に信用できない者に、権力を与えるべきじゃない。
「しばらくは領土発展する必要はない。現状維持に努めてくれ。人手は早急に増やすから」
「承知いたしました。大きな問題にのみ対処することにします」
「頼むぞ。俺も報告を終えたらすぐに戻って来るから」
「ところでエメラルダを貸していただけませんか? この化け物を代わりに」
「誰が化け物かっ! この戦えぬ内政屋がっ!」
「はあっ!? 私は今回、貴女の暴走を止めるために戦わなかっただけでしょう!」
まーたシャルロッテと綾香の喧嘩が始まったので、俺は逃げるように玉座の間を出た。エメラルダも連れてだ。
……あの二人、一瞬だけ雰囲気よかったのになあ。
するとエメラルダが小さく首をかしげた。
「あ、あの。私もここに残った方がよかったのでは……」
「いやそれは困る。エメラルダには他にやって欲しいことがあるからな」
「…………ガンバリマス」
エメラルダが死んだような表情で笑っている。
こうして俺たちは王都ラレンティアへと向かった。そして我が国の玉座の間にて、セリア姫に謁見する。
「女王陛下、お待たせいたしました。無事にヴォルガニア国をほぼ滅亡させました。一部の者が抵抗しておりますが、すぐに鎮圧できるでしょう」
「見事にやってくれました。流石はフーヤです!」
玉座に座るセリア姫は、ニッコリと太陽のように微笑んだ。超かわいい。
「よくはやった。だが……これどうやって統治するつもりだ……? ヴォルガニア国の土地をちゃんと見るなら、我が国の現官僚の二倍くらい追加で必要ではないか……?」
そしてリーンは眉間にしわをよせていた。
土地が増えたのは嬉しいが、やはり人手不足過ぎる。まさに猫の手も借りたい状況だった。
「まずは旧ヴォルガニア配下の者の、大半を雇い入れます。彼らに猫の手くらいにはなってもらいましょう。無論、旧ヴォルガニアの土地は任せません」
「……元々我が国の土地を見てきた内政官と、彼らを入れ替えるということか。無論重役に置くわけにはいかぬので、下級役人とせねばならぬから……」
「今の我が国の下級役人たちは、大半が出世ですね」
「……人手不足の現状ではやむをえんな」
リーンは苦虫を噛み潰したような顔をする。
まあ正直相当ひどい玉つき人事だがやむを得ない。信用できない優秀な人材よりも、信頼できる無能の方が助かるのだから。
「ただですね……誠に申し上げにくいのですが。旧ヴォルガニアの両脚だった者達を筆頭とする者たち。ダンティエルやローニンにいくつかの者は、私の直臣としてならと希望しております」
これはつまり「セリア姫の臣下にはなりたくない」という意思表明にも取れる。
なのでショックを受けないか心配だったが……。
「そうなのですか。ならフーヤの直臣で構いません。優秀な人が臣下になってくれてよかったです」
セリア姫を特に気にした様子もなく微笑んでいる。
……やはりこの少女、器がものすごく大きいよなぁ。そこらの王ならキレてる恐れもあることなのに。
性格は完璧なのだ。いつかセリア姫の無能の呪いが解けたら、完璧な女王になるのではないだろうか。
「…………仕方あるまい。優秀な人材を他国に流すわけにもいかぬ」
そんなセリア姫の代わりのように、リーンが忌々しい顔で俺を睨んでくる。
うん、やはりこの二人はバランスがいいな!
「報告としては以上でございます。後は旧ヴォルガニアをどう統治するなどは、女王陛下がお決め下されば」
俺はしっかりと臣下の礼を取る。
今回は少し暴れ過ぎたからな、こうすることで忠義の臣であることをアピールだ!
「わかりました。では論功行賞を始めましょう。まずフーヤには東都イースティアを返上してもらいます。代わりに……旧ヴォルガニアの土地を全て与えます」
「……よいのですか? そうなると女王陛下の直轄領よりも、私の領地の方が大きくなりかねませんよ?」
破格過ぎる待遇だ。土地の広さだけなら俺の方が大きい。
今の俺は旧ヴォルガニアの土地と、北都ノースウェルの二つを支配することになるわけだ。
もちろん最初の数年は土地の安定に四苦八苦するだろう。治安の維持などしなければならないし、そこまで大きな権力とはならない。
だが統治が落ち着いて来れば、俺はセリア姫よりも権力が強くなるかも……。
石田三成は自分の領地の半分を、ひとりの臣下に渡したというが……これはそれ以上だ。なにせ半分以上を分け与えるのだから。
「構いません。ただし貴方一代限りの権利として、次代には継げないようにします」
……なるほど。俺なら権力を持っていてもいいけど、子孫までは信用できないという意味か。
つまりこれは、セリア姫は俺に全幅の信頼を置いているということに!?
「その……フーヤ。これからも私を守ってくださいね」
セリア姫は少し頬を染めながら、可愛らしく呟いた。
「お、お任せください! このフーヤとその臣下ともども、身命を賭してお守りいたします!」
ここまで信頼されて、裏切るなどという選択は絶対にありえないな! いやもとからそんなつもりはないけど!
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うまく事が進んでいきますね!
なんの懸念もないし未来は明るい!
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