第46話 ひとまずは


 今回の戦、色々と大変だったが上場の成果と言えるだろう。


 シャルロッテは無事に復活したし、戦場に出ていたヴォルガニアの兵士たちは全員降伏した。


 当然だ。なにせ彼らはもう兵科陣形を維持できず、まともに戦う術はないのだから。


 敵将であるヴォルガニア王とダンティエルとローニン、全員が俺達に倒されてしまったのだから。


 この世界、大将首獲られると率いた兵士が全員無力になるとヤバイ。俺も気を付けないとな……。


「それでお前たちはどうするつもりだ? 助命を願うなら、それ相応の交換条件が必要だが」


 ひとまず平野に敷いた布陣の中。俺達は捕縛した敵将を、縄で縛って地面に座らせていた。


 ようはヴォルガニア王とダンティエルとローニンである。戦後処理として彼らをどうするかだ。


 ヴォルガニア王を人質にして、ヴォルガニア国の各都市を無血開城させられるとよいのだが。


「無論、助命を願おう。交換条件は、余の名によってヴォルガニア国の完全譲渡を宣言する」


 ヴォルガニア王は真剣な表情で、言いよどむこともなく告げてきた。


「……そんな一大決心を、微塵も迷わずに宣言すると?」


 怪しい。すごく怪しい。


 もしかしてここで助命してもらって、後々また反抗なり考えているのでは……。


「安心せよ、もう余は王になるつもりはない。知ったのだ、死の際に立ったことで自分が何者でありたいかを……余は芸術家になりたかったのだ」

「……は?」


 ヴォルガニア王は恍惚とした顔で幸せそうに笑っている。


「あの美しい女神の断罪の拳を前にし、余は天命を言付かったのだ! 芸術に傾倒し、あのお方の姿を現世に残すべしと!」


 あーうん……シャルロッテにぶたれて壊れたのかな。


 ヴォルガニア王はシャルロッテを、まるで女神かのように見つめている。


「な、なんだこいつは……」

「おお女神よ! 私は貴女の御姿を、必ずやこの世界に顕現してみせましょう! 私は嬉しい……貴女の寿命を延ばすために、我が至宝を献上できたことを」

「ふ、フーヤ様! この男、即座に切り殺すべきです! 生かしていては何やらよろしくない気がしますっ!」


 やべぇシャルロッテが珍しく暴走せずに動揺してるぞ。困ったらすぐに暴走する気があるのに。


「おおっ! なんという美しさ! どうかまたその拳でこの余をお殴りください!」


 ヴォルガニア王、なんか目がイッちゃってる気がするし……これ流石に演技じゃないだろ。


 ローニンやダンティエルも心底幻滅したような顔してるし。


 ……いいか。ヴォルガニア王も臣下にしたかったが、元敵国の王を雇うと面倒ごとも起きそうだ。例えば俺達が接収した後のヴォルガニアの土地で、再び謀反を起こすとかな。


「いいだろう。お前の助命を認める。ただしエルス国に許可なく入ることは許さん!」

「感謝いたします! では早速許可を頂きたいのですが……! 王都にて芸術家として活動を……!」

「……後でな」


 謀反考えてる奴が、王都で芸術家なんてしようとは思わないよなぁ……。


 まあひとまずこのヤバイ奴は放置しよう。俺はローニンとダンティエルに視線を投げる。


「深淵知謀のローニン、暴れ竜のダンティエル。俺は貴殿らの力を評価している。どうだ? エルス国に仕えないか?」


 この二人はかなり優秀な武将だ。


 このレベルの武将はそうそう転がっている者ではないので、出来れば臣下にしておきたい。


 そもそも我が軍は武将の頭数が少なすぎるのだ。ヴォルガニアの土地まで占領したら、今の武将の数では絶対に足りなくなる。


 支配する土地が広くなるにつれて、距離的に俺なしで守る必要のある場所も出てくるからな。


「二人とも。余に忠義を尽くす必要はないぞ。其方らには生きていて欲しい」


 更にヴォルガニア王も説得に加わってくれた。この男、若干壊れてるが臣下想いではあるようだ。


 ローニンとダンティエルはしばらく黙り込んだ後。


「……エルス国に仕えるのは御免被る。だが……」

「フーヤ殿、貴殿の戦術には舌を巻いた。我らを野戦決戦に誘い出し、あの暴走軍を使いこなした手腕は見事。なれば……」

「「フーヤ殿の直臣としてなら、臣下になりたいと存じまする」」


 エルス国ではなくて俺の直臣にか。


 あまり変わらない気もするが……どうやら俺が気に入られたのかな? まあ臣下になってくれるなら別に問題はない。


「…………フーヤ様の直臣としてなら、ですか」

「ううむ……」

「綾香にシャルロッテ、どうかしたか?」

「いえ、なんでもありません」


 綾香がボソッと呟いて、シャルロッテが少し怪訝な顔をした。


 二人ともどうしたのだろうかと思ったが、なんでもないならひとまず流すか。


 まずは目の前のダンティエルとローニンを、安心させてやらないとな。


「分かった。なら二人はこれから、俺の臣下として励むように」

「「ありがたき幸せ!」」


 ダンティエルとローニンは、俺に頭を下げてきた。


 これでひとまずの処理は終わったか。後は進軍して、ヴォルガニア王都を占領すれば終わりかな。


「よし! 総員、陣をはらえ! これより王都に向けて出陣する!」

「すみませぬ、フーヤ様。ひとつだけお聞きしたいことが」


 軍に命じた瞬間、シャルロッテが俺に声をかけてきたのだった。


「フーヤ様。このシャルロッテ、身命を尽くしてお仕えする所存であります。つきましては、フーヤ様の望みや目標をお聞かせください」


 俺は腕を組んで考えていた。目標……セリア姫を守るのは当然として、それ以外に今後どうするかというならば……。


「目標か。そうだなぁ…………いっそこの大陸を統一してしまうか」


 実際のところわりとアリだと考え始めている。


 もうヴォルガニアまで滅ぼしてしまう以上、この世界を正史通りに誘導するのは難しい。ならば俺が掌握してしまった方が、都合よく動かせるのではないだろうか。


「フーヤ様。やはり大陸を統一するには、厄介な障害があると思われます。それはいかがするおつもりでしょうか?」


 厄介な障害……確かにある。やはりそれはアルテミスだ。


 あいつはゲームの主人公だけあって鬼強い。しかも配下武将も優秀な者が揃っている。


 そりゃそうだ、本来このゲームの勝者になる存在だからな。


 だがあの国を存続させながら、大陸の統一はなしえないだろう。


「そうだなぁ……いずれは何とかするしかないか」


 もちろん前置きとして、もし大陸を統一するのならと入るが。


 するとシャルロッテと綾香は俺に頭を下げて来る。

 

「承知いたしました。ならば私たちは、フーヤ様が悪く言われぬように追いやる策を考えましょう!」


 悪く言われぬように追いやる? ……ああ、滅ぼすということか。


 なかなか難しい気がするな。なにせ俺達側からアルテミスに攻める大義名分がない。


 戦争を仕掛けるに値する大義名分を得るのは難しい。昔の戦国大名など、それを得るために色々と手間と金をかけて工作していたのだから。


「いやそれは難しいような……まあ期待しておこう。これからもよろしく頼む」

「「ははっ!」」


 だがアルテミスを滅ぼすのは置いておくとしてだ。


 今後も我が国が生き残るのは可能だろう。なにせシャルロッテに綾香にユピテルと、優秀で忠義厚い臣下たちが揃っているのだから。


 彼女らは俺を裏切ることはないはずだ。今回の件もあるし、俺の持つスキル《人徳の極》で、さらに臣下忠義は上がっている。


 きっと彼女らは今後も、俺のために動いてくれるだろう。俺も活躍に応じて恩賞を払えるように頑張らないとな。


「よし! 進軍だ! これよりヴォルガニア王都へ向かう!」


 俺は兵士を率いて進軍を始めるのだった。





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 エルス国の空を、ユピテルが飛翔している。


 彼女は遠くからフーヤたちの戦いを見ていたのだ。


「汝は見事に成し遂げた。だが成し遂げ過ぎた。急すぎることには必ず穴があり、欠落がある」


 ユピテルの目はシャルロッテと綾香を捉えている。


「汝はやりすぎた。不可解な行動は理屈によって誘導される。理屈ではない私心だったならば、漏らしておかねばならなかったな」


 そんな彼女の視線の先では、シャルロッテが歩いているのが写る。


 シャルロッテはフーヤ様の軍の後ろで、綾香の人形陣に紛れていた。


 死にかけたことで兵科陣形が解除されてしまい、彼女の率いていた兵士たちもただついてくるだけだ。

 

(……私は恩義を返さねばならない)


 シャルロッテは心の中で念じていた。


(フーヤ様の夢を、願いを叶える。それがこの私に出来る恩返しだ)


 シャルロッテは自らを救ってくれた人に、全てを捧げると決めている。


 ゆえに彼の望みを聞いたが、大陸の統一なのは予想外だった。


「ちょっと歩くの早いのだけれど。人形たちが大変だから足を遅くしなさい」

「今は考え事をしている! 少し静かにしろっ!」

「まったく気遣いの欠片もない! これだから蛮族は……」


 綾香のボヤキを無視して、シャルロッテは思考を再開する。


 シャルロッテは身が震えた。やはりこのお方は、フーヤ様は偉大なお方なのだと感じたのだ。


(この大陸を平らげるなど、並みの者では及ぶべくもない! フーヤ様ならばきっと叶えることができる……ひとつの懸念を除いて)


「綾香。フーヤ様の宣言を聞いたな?」

「……もちろん。ウチを臣下にする御仁なら、大望を抱いて然るべきですから」


 シャルロッテの問いに対して、輿に乗った綾香が扇子で仰ぎながら答えた。


「ですが……今のままでは難しいでしょうね」

「お前もそう思うか。珍しく意見があったな」

「つまりそれだけ、致命的な問題というわけです」


 シャルロッテは綾香の答えに納得する。


 シャルロッテにとってフーヤは、天下無双にして知謀の極みを持つ。だが彼には唯一にして最大の弱点があると理解していた。


「先ほどのダンティエルとローニンの申し出からも明らかだ。ならば我らが今後すべきことは……」

「決まっていますね。問題を取り除くこと」


 シャルロッテは決意している。フーヤ様の臣下として、彼の大陸統一の願いを叶えると。


 そのために取り除くべき問題があることも。


「セリア女王陛下には降りて頂こう。フーヤ様もそれを望んでおられる」

「そうですね。足手まといの女王陛下が上にいては、フーヤ様の大陸統一は難しいでしょう。我らの主が世間から悪評を受けぬように、エルス国をもらい受ける策を考えます」


 シャルロッテは先ほどのフーヤとの言動を思い起こす。


 彼女はこう考えた。フーヤが直接主君を裏切っては、世間からの叱責は免れない。


 だからフーヤは裏切る様子などおくびにも出してはならない。どこに目や耳があるかもわからないのだから。


(だからこそ、分かりづらい方法で我らに命じたのだ)


 シャルロッテは前方に目を向けた。その方向にはフーヤがいるはずだった。


(フーヤ様、お任せください。我らが必ず貴方の重しを取り除いてみせましょう)



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無能な王はいらないですよね(;´・ω・)


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