第43話 駆ける
「シネエエエエェェェッェェ!!!!」
シャルロッテの軍は、敵騎竜の陣形に突撃。
鎧袖一触と言わんばかりに、騎竜をまるで貧弱なトカゲのように吹き飛ばしていく。
「ミナギルゥゥゥ……アアアアアァァァァッァ!!!!」
シャルロッテは雷のような雄たけびをあげる。
その一声だけで敵の陣形は乱れ、兵士は怯え、竜がジリジリと後退し始める。
(なんという、なんという高揚か! 私は今にも倒れそうなのに、これ以上ないほどに絶好調だ!)
シャルロッテが金棒を一振りするだけで、敵の兵士が何人も吹き飛んでいく。
「ば、バカな!? このダンティエルの騎竜軍が、まるで紙切れのごとく吹き飛ばされていくだと!? あり得ぬ!? 奴の超攻撃力が、以前よりも上がっている!?」
騎竜軍を指揮していたダンティエルは、シャルロッテの暴れ具合を見て焦っていた。
実際にこれまでのシャルロッテの攻撃力ならば、騎竜陣をここまで蹂躙することはできない。
ダンティエルが決して彼女の力を見誤ったわけではない。
今のシャルロッテの絶好調は勘違いではなく、純粋に以前より力が強くなっていた。
「オオオオオォォォォォ!!!!」
シャルロッテは血反吐を吐きながら、敵に悠然と突撃して敵を吹き飛ばしていく。
ダンティエルの騎竜陣は、決して弱い陣ではない。むしろ防御に優れていて、例えフーヤの全力だろうと蹂躙できる相手ではない。
――スキル『黄泉の道連れ』。寿命が近いほどに攻撃力が強くなるスキル。
灯滅せんとして光を増す。死の際に立った今の彼女の前には、どんな堅牢な鎧であろうとも鎧袖一触でしかない。
もはやシャルロッテの今の破壊力は、強武将ですら相手にならないほどの力となっていた。
ダンティエルが木の棒であったならば、今のシャルロッテはチェーンソーだろう。もはや比べるのも愚かと思えるほどの差だ。
「お、落ち着けい! あの暴走した化け物とまともにやり合う必要はないっ! 後方からの支援まで時間を稼げばよいっ!!!」
ダンティエルが兵士たちに吠える。
もしシャルロッテが突っ込んできた場合、しばらく前衛が持ちこたえる。その間に後方の火力で潰す計算であった。
だがその一方で彼は理解していた。
(……先ほど大火力を前方に放ったので、しばらく魔導陣は撃てんかっ! まさかあの制御の効かぬ暴走陣が、魔導陣のクールダウンという奇跡的なタイミングで突撃してくるとは……!)
ダンティエルは内心舌打ちをする。だがすぐに考えを直した。
(待て……奇跡的なタイミングなどそうそう掴めるはずがない。ならば……必然? だがあの暴走兵士を抑えるなど…………まさかっ!?)
ダンティエルは咄嗟にシャルロッテ軍の後方を確認した。そこにいたのは綾香率いる人形陣の兵士たち。
綾香たちの方が前にいたはずなのに、いつの間にかシャルロッテたちが追い越していた。
(……そうか! あの人形陣はフタだ! 奴らがこの場に出てきたのは戦力としてではないっ……! 暴走兵士軍の前に立ちふさがることで、我らへの突撃を妨害していたのか!? そしてここぞのタイミングで退いたと!?)
前方の軍が邪魔で、敵と戦えないというのは普通にある話だ。
例えば関ヶ原の戦いのとある隊は、前方に位置する友軍が邪魔で敵に突撃できなかった。
その友軍は実は敵側に内通していて、「弁当食べてるからまだ戦えない」と言い訳をしていた逸話がある。
それにこの戦場にたどり着くまでにも、綾香の隊が鈍いせいで、その後ろに位置するシャルロッテもまた遅れていた。
正確には綾香の隊があえて邪魔になるように移動し、シャルロッテたちの先行や突撃を防いでいたのだ。
味方への攻撃はできないのもあって、シャルロッテたちにはどうにもできなかった。
(しまった……てっきりあの人形陣を盾にするために、暴走軍団の前に置いているものとばかりっ……!)
ダンティエルが自分の失態を悔いた瞬間だった。
「タイショウ……ミツケタァァァァッァァ!!!」
シャルロッテはとうとうダンティエルを発見し、彼に向けて突進し始めた。
「むぅっ! 来るか化け物め! 我が名はダンティエル! 猛き怪物よ、わが槍の前に斃れるがいい!」
ダンティエルは迎撃のために、騎竜に乗ったまま槍を構える。シャルロッテのこん棒を受け止めた後、反撃に出る算段だ。
だが、それはあまりにも今のシャルロッテを過少に見ていた。
「アアアアアアアアァァァァァッァァ!!!!」
今の常軌を逸したシャルロッテの前に、たかが鉄槍など木の棒でしかなかった。彼女の金棒によって鉄槍は即座に折れて、そのままダンティエルの身体が打ちのめされる。
ダンティエルは悲鳴すらあげられず、数十メートル吹き飛んで地面に転がった。そして起き上がらない。
大将が戦闘不能になったことで、ダンティエル軍の兵士たちの騎竜や武器が消えてしまった。
「ひ、ひいぃぃぃぃっ!? 化け物ぉ!?」
「助けてぇ!?」
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敵兵士たちが逃げて行く。だが
今の私の目標は戦う力を失った雑兵などではないのだから。
(フーヤ様、感謝いたします……このシャルロッテに、死出の戦地を与えて下さったことに!)
頭が沸騰するほどに熱く、全身が重くなっている。先ほどから口は血の味しかしない。
だがまだ前に出る。前に出られる。私はまだ戦える、あれだけ望んだ戦場で武名を轟かせることができる。
なにより……。
「オンギヲ……コノオンギヲ……スコシデモ……カエスウゥゥゥ!!!!」
私は幸せ者だ。死ぬ寸前にすら主力として戦わせて頂ける。
身体が重い? 頭が痛い? 死にそう? そんなもの、今まで散々舐めてきた苦渋に比べれば、たかだ血の味がするだけだ。
「化け物! 何をやっているのです! 早く敵本陣を突破しなさい! ヴォルガニア王を捕らえるのです! 分かっているのですか! この戦いの鍵を握るのは貴女なんですよ!」
後ろから綾香の声が聞こえる。言われなくても分かっている。
ここまで活躍の場を整えてもらったのだ。我が武勇を見せつけずしてなんとする!
「オオオロロオオオロオオオオオォォォォォォ!!!!」
血反吐を地面に吐きながら咆哮し、敵本陣に向けて突撃し始める。
「お、王をお守りせよっ! 我が名はローニン! 貴公の相手は私がつとめっ……」
妙な男が叫んで立ちふさがったので、即座にこん棒で殴ってぶっ飛ばした。
雑魚兵士に用はないのだ! 我が目的はヴォルガニア王のみ!
走る、奔る、ハシル。敵のいるところに向かってはしる。
そうして見つけた、冠を被った男を。
「ミツケタァァァッァ!!!!」
「ぐっ!? 兵士たちよ! 私を守れ!」
「じゃマアアアアァァァッァ!!!」
立ちふさがる兵士をこん棒のひと振りで弾き飛ばす。すると何故か他の兵士たちは、私の前に出なくなった。
もはや王と私の間には、立ちふさがる者はいなくなってしまったのだ。
ほんの少しだけ悲しくなった。もうこの戦いは終わりなのか、私の最後の戦は。
……たまにふと思う。ここは夢なのではないかと。
本当の私は戦場に出れもせず、病魔で朽ちるのが運命だったのではないかと。
今の私が戦場に出て、国中に武名を轟かせるのは本来あり得なかったことだ。私自身、今でもおかしいと思っている。
病に冒された状態の私を将として雇うなど、頭がおかしいにもほどがある。だがフーヤ様は別におかしい人ではない。
だから私にとってフーヤ様はきっと神様なのだろう。私の命尽きる寸前の願いを聞き届け、叶えて下さった。
名残惜しい。だけど目の前の敵を捕らえねば、フーヤ様への恩を少しでも返さねば。
私がヴォルガニア王に肉薄すると、奴は諦めたかのように佇んでいた。
「……もはや逃げはせん。余の負けだ……だが教えて欲しい。何故其方は、ここしかないタイミングで突撃できたのだ。貴様はどう見ても、正気の沙汰では……」
「アアアアアァァァァァ!!! タオスゥゥゥゥ!!!」
「や、やはり狂って……いや美しい……。教えてくれ。どうしてそんな状態で、ここぞの機を貴女がはっ!?」
私がヴォルガニア王を軽く殴ると、奴は地面に倒れ伏した。
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今のシャルロッテの軽く殴る>ダンティエルの全力攻撃
現在の彼女の攻撃ステータスは、ダンティエルの二十倍くらいです。
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