第39話 調略


 俺と綾香とユピテルはシャルロッテを救うため、執務室で色々と策を練っていた。


 ヴォルガニアは厄介な国ではあるが、首狩り将軍よりは戦いやすい。調査して分かったことだが、あの国にはオリジナル武将の類はいないのだ。


 つまり敵将の能力や性格を、俺はほぼ掌握できていることになる。もちろんゲームと完全に同じかは確定ではないが、集めた情報によると性格などは酷似してそうだ。


「知将ローニンは用心深く慎重、逆にダンティエルは血気盛んだ。二人そろえば互いに補ってバランスが取れている。ダンティエルだけなら、野戦に持ち込むのは楽なんだけどなぁ……」


 ダンティエルは無能ではないが、籠城を好まないタイプの武将だ。少し策を弄すればすぐに出陣してくれるだろう。


 問題はローニンだ。あいつは基本的に策士の類なので、勝ち目がないなら城から出てこない。


「巨人を全滅させた魔導陣は使えないのですか? あれなら敵城塞を一撃で粉砕することも」

「あれは年に一発限りしか撃てないんだ」


 綾香の提案に首を横に振る。


 魔導豪砲陣の必殺攻撃が連発できたらクソゲーだからなぁ……流石に制限がある。一年に一発でも相当なバランスブレイカーだけどな。


「……よし決めた! ユピテル! お前にはノースウェルの城代を一時的に任せる」

「ほう。エメラルダがいるが?」

「エメラルダの城代は一時的に解任し、俺の命令で動いてもらう」


 エメラルダは性格に難もないし、諜報活動の類も可能だろう。ユピテルは人の機微など分からないし、足の悪い綾香でも無理だ。


 シャルロッテに関してはそんなのやらせるほうが頭おかしい。


「ユピテル、お前はノースウェルの治安維持に全力を尽くしてくれ」

「我ならば余裕だ」


 自信満々のユピテル。なお彼女の内政LVは20だ。


 ノースウェルの治安悪化はほぼ間違いない。下手すれば世紀末になりかねないが、この際は目をつむるしかない! 人手が足りなすぎる!


「よし! 出陣の支度をしろ!」

「ははっ! 急ぎ各領地から、この都市に全兵士を結集させます! 女王陛下にも支援を要請します!」

「いや待ってくれ。全兵士はダメだ、国の半分ほどにして欲しい。それと共に、準備する兵糧も少なめで」


 綾香は怪訝な顔で俺を見てきた。


「……兵力が足りないと思うのですが。我が国の半分では兵士は一万ほどです。ヴォルガニアは二万を超える軍勢を……」

「分かっている。だがそれくらいの兵力差を見せないと、敵軍が引き籠ってしまうかもしれないだろ?」


 基本的に籠城戦術というのは、あまり好まれる策ではない。


 兵士の士気低下、周囲の土地は荒らされると悪いことずくめだ。


 もし普通に戦って勝てる見込みがあるのに、籠城するというのは愚策になる。


「敵が籠城戦術を取らないようにするのは案外簡単だ。こちらの軍を減らしてしまえばいい。野戦で勝てると思わせればいい」

「し、しかしヴォルガニアは優秀な武将も多いですよ? これまでの敵とは違います」

「これまでの敵が化けて出てきそうなセリフだな」


 主にボルギアスと首狩り将軍とミーストスの武将が。いやミーストスの武将は死んでないけど。


「茶化さないでくださいまし。いくらフーヤ様と言えども、敵の半数以下の兵力で勝てるのでしょうか」


 綾香は真剣な表情だ。


 おそらく彼女も本当にシャルロッテを助けたいのだろう。ならこちらもちゃんと答えないとな。


「切札はある。それにシャルロッテが死ぬ前にケリをつけるには、敵との野戦はほぼ絶対条件だ。勝てるかではなく勝つ」


 今回の戦は間違いなく難しいものになるだろう。


 ボルギアスなどとは比べ物にならないほど、敵兵数も武将の質も高い。


 更にこちらには制約が多すぎる。ただ戦に勝つだけではダメで、ヴォルガニア王の寿命延長スクロールを奪わなければならない。


 アレはすごく大事な品物なので、基本的に肌身離さず持っているはずだ。


 なにせ寿命を延ばすアイテムなのだから、どれだけの者が欲しがることか。例え臣下だろうと信用できないだろう。


 であれば絶対に安全な場所、つまりは自分の懐に入れていると思われる。


 なので戦場で捕らえてしまえば手に入るはず……。最悪手に入らなくても、それを渡せば許すと言えばなんとかなるだろう。

 

「そういうわけで綾香。任せていいか?」

「ははっ! お任せください!」


 綾香が俺の意図を察して、さっそく輿を運ぶゴーレムに指示を出した。


 綾香はわっせわっせと、輿と共に運ばれていく。


 流石だ、俺の雑な指示でもやるべきことを全て理解している。おそらく兵士の全結集には二週間はかかる。


 シャルロッテの寿命はゲーム通りなら残り二ヶ月……この二週間は貴重な時だ、決して無駄にするわけにはいかない。


 俺も部屋の外に出て、控えている兵士に命令を行った。


「兵士に伝令。敵国にとある噂を流して欲しい」


 俺も出来ることをやろう。直接戦うだけが戦争じゃない。姦計を弄して、敵を揺さぶるのもまた戦だ。


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