第38話 ヴォルガニアの思惑
ヴォルガニア国王城の作戦室。そこでは王冠をかぶった男と、二人の騎士が机を囲んで話し合っていた。
「エリス国が周囲の国に勝ちながらも、不平等な停戦を結んだ。最初は無能な女王がまたやらかしたと思っていたが……」
ヴォルガニア王は机に置いてある地図を睨んでいる。その地図には、エリス国の三方の国が『愚鈍』と書かれていた。
「狙いは今の状況を作り出すことでしょうな。そして三国はいまなお、それに気づいてすらいない」
ズル賢そうな様相の、出っ歯の男がため息をつく。
彼はローニン。ヴォルガニア国の軍師にして、深淵知謀の知将。
すでにエリス国の狙いには気づいていて、急いで王たちに声をかけて話し合いを設けた男だ。
彼のステータスはかなり優秀であった。
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ローニン
攻軍:LV80
防軍:LV82
内政:LV53
魔軍:LV65
スキル
『策士』
(敵に調略を仕掛ける)
兵科陣形
『弓陣』
『魔導陣』
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「あまり他人を嘲笑する趣味はありませんが、これであの三国は自ら選択肢を投げ捨てましたな。私なら三国で同盟を結んで、日和見をしていたものを」
ヴォルガニア国もまた、エリス国を吸収したいと考えていた。
彼らからすれば最近のエリス国の動きは、注視するに値するものとなっている。
なにせ隣国に信じられない強さの武将が多く出てきた。さらにずっと問題になっていたヴォルギアスと女王の権力分立も、現在は女王の元にまとまっているのだ。
「せっかく首狩り将軍をそそのかし、泥沼の内乱にできる予定でしたのに」
ローニンは今後の策略を練った時、可能な限り無血でエリス国を合併したいと考えていた。
そのため内密に首狩り将軍を支援していた。彼が国のトップになった暁には、ヴォルギアス国に従属するという条件で。
首狩り将軍が反乱を起こしたのは決して無策ではなく、むしろかなりの策が弄されていた。
「ふん! もともとそんな姑息な策などあてにしておらん! 戦によって雌雄を決するのみ!」
今まで腕を組んで黙り込んでいた大型の男が立ち上がった。
その筋肉は服の上からでも分かるほどであり、立派なヒゲをたくわえたまさに武人の見た目をしている。
彼はダンティエル。ヴォルガニアの騎士団長にして、暴略武人の猛将。
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ダンティエル
攻軍:LV85
防軍:LV85
内政:LV30
魔軍:LV0
スキル
『暴れ竜』
(攻↑、防↑、機動↑、命令不能)
兵科陣形
『剣陣』
『槍陣』
『騎竜陣』
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「私がいつものように、すべて打ち砕いてご覧に見せましょう!」
「貴方が負けるとは思っておりませんがね。なるべく無血で奪いたかったなぁ」
ダンティエルは何度も戦場に出向き、戦力的に不利な戦いを覆してきた猛者だ。
特に彼は特別な兵科陣形として、騎竜陣を扱うことができる。
二足歩行の小型竜に騎乗する陣形で、普通の馬よりも頑丈な上に強靭な顎で敵を噛み砕く。
ダンティエルが率いる部隊は、他国に『暴れ竜の群れ』と恐れられていた。文字通りに暴れた竜のごとく、手が付けられない存在であると。
知将と猛将。その二人を見て、ヴォルガニア王は小さく頷いた。
「うむ。其方らがいるのだから、我が国が敗北することはあり得ぬ。だがその一方で、可能な限り被害なく勝ちたいのは変わらぬ」
「もちろんでございます! このダンティエルにお任せを! 我らの敵はエリス国だけではありませんからな!」
「であれば時間を稼ぎ、エリス国の自滅を待つのもアリかと。なにせエリス国と周辺国の停戦期間は短い。我らは時間をかけて戦えるが、奴らが万全を保てるのは短期間のみ」
ローニンが淡々と告げる。
彼らは決して無能ではない。現在のエリス国の現状を把握し、時間を稼ぐ利点も考えついていた。
「何を申すか! 我が国の土地を一時的にでも占領されるなど! 戦いとは敵地で行うべきだ!」
ダンティエルが咆哮する。
だがその一方で、彼らにとっても最善手は迷うものだった。自国の土地を踏みにじられたら、蹂躙や略奪で必ず被害が出る。それに気分的にも決して好ましいものではない。
「ダンティエル殿。貴殿の言うことも間違ってはいない。だが我らとて隣国のことは警戒せねばならん。兵の損耗は極力避けたいのが本音だ」
「それならば国の損耗こそ減らすべきだろう! このダンティエルが敵を撃ち滅ぼしてくれよう! エリス国よりも我が軍の方が、間違いなく多くの兵士を用意できるのだ!」
ローニンとダンティエルの言い争いを聞いて、ヴォルガニア王は考え込み始めた。
「迷いどころだな。双方の言葉に理と悪い点もある」
「エリス国の武将は優れています。直接戦えば被害が出ましょう」
「彼の国には強力な魔導陣があります! 籠城しても城壁がすぐに粉砕される恐れが! ならば打って出るべきかと!」
「……少し吟味しよう。なにせ時間は我らの味方なのだからな」
戦において最善の選択肢を見つけるのは容易ではない。
だがひとつだけ言えることがあるとするならば、今までの敵とはまるで違う。
ヴォルガニア国は決してエリス国を舐めておらず、フーヤたちの情報もある程度は掴んでいる。そして武将の質も優れていることだった。
「なんならいざとなれば、我らも停戦してしまえばいいのですから。陛下ならばあの女王を手玉に取ることくらい容易でしょう」
「確かにその通りだな……よし決めた。基本的には防衛、籠城を行うぞ! 前線の都市は被害を受けるだろうが、多数の敵軍とぶつかり合って消耗することはない!」
ヴォルガニア王は高らかに叫ぶ。
「そして敵が撤退し始めたら追撃だ! 東都を占領して停戦し、その条件として芸術品の類を頂きたいものだな」
彼は芸術品の類の収集家だ。
寿命延長アイテムもコレクションのひとつであった。
「陛下、必要以上に私欲に走るのはやめてくださいね」
「無論、国益にそぐわぬことはしない。だがせっかくだ、土天の壺くらいねだっても問題あるまい」
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