二章

第29話 武勇轟く


 ボルギアスの乱が集結したころ、王都の民たちが広場で話し合っていた。


「ようやく落ち着いてきたなー。この国どうなっちまうんだと思ったが」

「王都で戦闘が起きた時は焦ったよなぁ」


 王都の民たちは気をもみながら生活していた。


 理由は当然だが内乱のためだ。まさかこの王都内で戦闘が起きるとは、彼らは予想していなかった。


「結局のところ、ボルギアスが寝返ったんだよな?」

「いや首狩り将軍が、ボルギアスを寝返ったらしいが」


 そして情報は錯そうしていた。


 なにせややこしいのだ。単なる謀反ではなかったから。


 まずボルギアスがセリア姫を掌握して、自らの権勢を保とうとした。これは厳密に言えば寝返りや謀反の類ではない。


 あくまでセリア姫を神輿にはしようとしたが、彼女の王権自体を奪うつもりはなかった。そしてそのボルギアスをフーヤが討伐する。


 次にセリア姫に対して、首狩り将軍が謀反を起こしたのだ。正確に記載するならば、ボルギアスは寝返っていないことになる。


 だが説明がかなりややこしいので、王家の正式表明はこうなった。


 まずボルギアスが謀反し、その中心人物に首狩り将軍がいた。


 首魁であるボルギアスが敗北したことで、救援として首狩り将軍が出陣したが敗北。そして事態は集結したと。


 歴史は勝者によって作られる。簡潔に民に伝わる方が望ましいので、多少設定を変えるのは普通だろう。


「しかし今回の戦で、フーヤ様は出世なされたなぁ」

「元から出世は時間の問題ではあっただろうけど……恩恵を受けたのは間違いない」


 今回の事態を終わらせたのはフーヤだ。当然ながら民からの話題になるのは明らかだった。


 そして彼が話題になるということは、臣下たちにも注目が集まることになる。


「さあさあ寄っておいで。今回の戦の唄を吟じよう」

「おっ。吟遊詩人の唄がもうできたのか」

「あいつら手が……いや口が早いよなぁ。ちょっくら聞いてみるか」


 広場で吟遊詩人の語りが始まった。


「悪鬼ボルギアスの反乱。王都を襲うは数多の軍勢、さらには巨人の群れ。それに立ち向かうは英雄フーヤ、そして三人の優秀な臣下たち」


 吟遊詩人は今回の戦の前提を脚色して話し始めた。


 まずボルギアスは悪魔に魂を売って、巨人と密約を結んでいたのだと。


 そしてリーンに毒をもって、この国の民を全員殺そうとしていたと。


 もちろん大半は嘘である。ボルギアスはそもそもセリア姫を神輿にする予定であり、国を滅ぼそうというつもりはなかった。


 そもそも自分の治める予定の国の民を、全員殺してしまうなどおかしい。だが吟遊詩人としては、敵が悪い方がウケがいいので盛っていく。


「まさに悪逆非道のボルギアスは! 女王の右腕リーンを毒に犯し! 巨人の群れを率いて王都に進軍してきたのである!」


 吟遊詩人はしたり顔で告げて行く。


 なお実際のボルギアスはそのころ、王城で潰されていた。


「そして王都に敵軍間近のころ! 英雄フーヤと三人の臣下が立ち並ぶ! 彼らは王都の民を守るためなら! 命をかけることもいとわぬ戦士たち! 英雄は言った! 『わが命を捨てても民を守る!』」


 大嘘である。フーヤはそもそも王都の民は嫌いだし、シャルロッテは自分の武勇のために戦っている。


 綾香も出世のためというのが大きいし、ユピテルに至ってはなんとなくだ。


 吟遊詩人はさらに息を挟みながら、矢継ぎ早に告げて行く。


「まず先陣切るは、『悪夢の赤鬼』シャルロッテ! 彼女の軍はまさに最強! どんな戦場だろうが、どんな状況だろうが無敵の軍勢だ!」

「次に並ぶは『人形巧者』綾小路綾香! その率いる人形の威容さは敵軍を恐れさせる! そして『天軍使』ユピテルが、神のごとき軍を率いる!」

「最期に『救国の英雄』フーヤ! 四人の包囲によって、ボルギアス軍はいともたやすく壊滅した! 首狩り将軍はシャルロッテに首を狩られ、哀れに地に落ちたのだ!」


 クライマックスとばかりに必死に叫ぶ吟遊詩人。


「首を落とした時、シャルロッテはこう言った! 貴様の悪心、このシャルロッテが打ち砕いた! と!


 現場を見た人がいれば、もはやツッコミが追い付かないレベルの内容。


 だが民衆たちは歓喜し盛り上がる。仔細を省けば、王都を守ったのは事実だったからだ。


「ああ彼ら四人を称えよ! 彼らこそがこの国を守る、四将天なりと! 彼らいる限り、この国は何人たりとも崩せぬ!」


 そうして吟遊詩人の語りは終わって、おひねりなどを要求し始めるのだった。


 ずっと話を聞いていた民衆たちも、口々に感想を語り始める。


「ボルギアスはやっぱり悪い奴だなぁ。いい噂聞かなかったもんなぁ」

「首狩り将軍が首狩られてるの絶対盛っただろ。どうせ普通に斬られて死んだだけだ」

「ふーん、こんなことがあったんだなぁ。四将天って頼りになる」

「シャルロッテ様、騎士道精神に溢れてそうだなぁ。たぶん戦でも勇猛果敢、かつ理性的に戦うんだろうなぁ……」


 こうして民衆たちは、微妙にねじ曲がった内容を信じて行くのだった。


 ただなんにしても、フーヤたちの臣下にも異名がついて有名になった。もはやこの国で彼女らを知らぬ者はいないだろう。



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川中島の戦いの信玄と謙信のつばぜり合いは、たぶん創作なんだろうなぁと。

でもそっちの方が恰好いいからヨシ!

そんなノリで脚色されてること、たぶん結構あるんだろうなと。


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