第31話 新たな臣下は……
俺達は東都イースティアの元領主屋敷(元々はボルギアスの所有物)の、応接間にて相談を行っていた。
メンバーはシャルロッテに綾香にユピテル。ようはいつもの面子である。
全員が机を囲んで席についている。シャルロッテは武人らしく少し肩を広げていて、綾香は逆に両手を膝に乗せて丁寧に座っている。
ユピテルはけだるそうに机に肘を乗せていた。座り方ひとつで性格出るなぁ。
「イースティアを見回ってみたが、やはりノースウェルよりもだいぶ豊かだな。ボルギアスも政務はまともにやっていたらしい」
「流石にボルギアスが無能ですと、王家を超える権力は得られませんものね」
俺は綾香の意見にうなずいた。
なんだかんだでボルギアスは無能ではなかった。ステータス的には別に有能でもないが、少なくともこの国では優秀な部類だった。
それとセリア姫の政務の鬼デバフが重なった結果、ボルギアス陣営のほうが強くなってしまったわけだが。
「なので俺達の本拠をノースウェルからここに移転しようと思う。やはり本拠は豊かな場所にした方がいい」
「ごもっともです! 流石はフーヤ様! その方が兵士がより集まって戦えます!」
「政務の面倒を見るにしても、イースティアの方が大変そうですからね。こちらを本拠にした方が都合がよいでしょう」
「なんでもよいが腹が減ったぞ。食事はまだか」
どうやら反対意見はないようだ。
ユピテルがなにやら言っているので、メイドに「何か作って」と指示しつつ話を進める。
「じゃあ本拠はイースティアに変更する。それで次の議題だが人手を増やしたい。今の人数では政務を回せない」
ノースウェルだけなら俺か綾香なら、一人でも手が足りた。だが二都市となると無理だ。
まずノースウェルには最低一人の武将が必要だし、イースティアは規模が大きいので二人欲しい。
どうするか相談しようとすると、チラリとシャルロッテと目が合った。
「ふ、フーヤ様! こ、この! シャルロッテにお任せを!? なんとかしてみます……たぶん……」
シャルロッテの声がどんどん尻すぼみになっていく。
うん、内政LV2だと流石に厳しいと思うよ。
「我がやってもいいがな、出来は期待するなよ?」
ユピテルが肉串を頬張りながら告げてくる。いつの間にかメイドが運んできたようだ。
残念ながらユピテルも政務レベルは20しかない。いないよりはマシかもしれないが、いても大したプラスにはならないだろう。
たぶん孫の手か猫の手くらいの役立ちさだろう。ようは基本的にはアテにしてはならない感じ。
「安心しろ、二人に頼むつもりはない。というか既に新たな人員は確保している」
「ほっ……フーヤ様! 私に政務を頼まないのは流石です!」
「貴女、それでいいんですの?」
「私の仕事は戦働きだ! 内政は内政屋に任せればいい!」
ジト目を向ける綾香に対して、シャルロッテは堂々と宣言する。
ここまできっぱり自分の役割を宣言できるの、ある意味才能かもしれない。
「とりあえず顔見せだな、と言ってもお前たちは知ってるかもしれないが。おーい、入って来てくれ」
俺がパンパンと手を鳴らすと扉が開く。緑髪をボブショートに切りそろえた少女が、おずおずと室内に入ってきた。
身長はかなり低く、ユピテルとあまり変わらない大きさだ。つまりはロリ気味である。
シャルロッテと綾香はしばらく少女を見つめた後に。
「はて? 特に知りませんね」
「申し訳ありません。ウチも覚えはないですね」
二人とも首を傾げながら目を細めた。やっぱり挙動が似ている……。
「この娘はエメラルダ。実は二人の軍の兵士としても入ったことがあるんだ」
「え、エメラルダです! よろしくお願いしますっ!」
エメラルダは小さな身体で必死に頭を下げる。
俺が彼女を雇用したのはその力を見込んでだ。実は彼女が軍に帯同していた時、ステータスを確認していたのだ。
ステータスを確認した理由? いやなんか兵士の中で一人だけ「モドシテ……」って片言で話してたから……。
普通の兵士と違うから妙だなと思ったのだ。ステータスを確認したら武将だった。
俺の知らない武将なので、元々ゲームにはいなかったキャラだ。
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エメラルダ
攻軍:LV65
防軍:LV62
内政:LV61
魔軍:LV64
スキル
軍策師
『自軍兵士の士気上昇』
兵科陣形
『剣陣』
『騎馬陣』
『魔導陣』
『弓陣』
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エメラルダを一言で表すならば、あらゆる面で汎用的な武将だ。
ステータスは全てが中の中くらいで、スキルこそひとつだが兵科陣形は最低限のものが揃っている。
どんな仕事を任せても抜群の働きはできないだろう。だがあらゆることを無難にこなす力がある。
そう! 無難にこなせるのだ! 我が軍は特化キャラばかりだからな!
シャルロッテに内政や防衛は任せられないし、綾香に軍を率いての攻撃や進軍を頼むと効率が悪すぎる。ユピテルに至っては敵次第で強さが百倍くらい違う。
ようは今までの三人は、場を整えないと使えない! 対してエメラルダはどんな状況でも雑に使える! 彼女のような存在は極めて貴重だ!
「これからはエメラルダに、ノースウェルの政務を任せようと考えている」
「え、ええっ!? わ、私なんかにですか!? あまり自信が……」
エメラルダはすごく驚いている。
大抜擢みたいなものだから当然だろうか。でも我が軍は人材が少なくて、そもそも抜擢するしかないのだが。
「大丈夫だ! 自信をもってくれ! 俺は君のメンタルを信じている! 軍で揉まれたんだから!」
だって正気のままに暴走戦士や人形に変えられたんだ。それでいまなおメンタルが安定してんだからすごい。
俺ならとっくの昔に軍辞めてるよ。
「……わ、わかりました。出来る限り頑張ります!」
こうして新たな臣下を手に入れたのだった。
さてと。モドシテちゃん……じゃなくてエメラルダは使い勝手がよさそうなので、色々と仕事を振っていくことにしよう。
ようやく雑に使える武将が臣下になったからな。
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これでもうモドシテちゃんは、酷い軍に入れられる心配はないね!
これからバラ色生活が待っている!
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