第27話 勝どき


 シャルロッテが首狩り将軍の首を狩った。


 総指揮官が死んだことで、敵兵全員の武装が消え去っていく。


「よし! 全員! 敵兵へのこれ以上の攻撃は禁じる! 速やかに捕縛せよ!」


 俺は即座に自軍兵士たちに命令を下し、必要以上の戦いを避けるようにした。武将に指揮された者とされてない者では、大人と子供以上の力の差がある。


 もう敵兵士は俺達に歯向かうことはないだろう。


 首狩り将軍は全軍を自分が率いていたようだ。おそらく他にロクな武将がいなかったのだろう。


 そもそも本来のゲームなら奴はいなくて、この国の武将は全員が弱いはずだったからな。


 なんにしてもこの戦いは俺達の勝利が確定した。


 俺は天馬に乗ったままで槍を空に掲げる。


「勝どきをあげろ!」

「「「えい、えい、おー!!!!」」」

「オオオオオォォォォォ!!! モット、モットテキをウチタイィィィィィィ!!!」


 こうして王都決戦は俺達の圧勝となり、敵の兵士たちの生き残りは俺達で運用することになった。速攻で首狩り将軍を狙い撃ちしたので、敵兵のうち一万ほどは無傷で吸収できた。


 敵兵と言っても普通に運用して問題ないだろう。そもそも彼らは本来なら同じセリア姫の民だからな。


 それにシャルロッテ軍に死ぬほどビビっていたので、逆らうこともないだろうし。


 ひとまず兵を連れて王都に戻り、急いで玉座の間に向かってセリア姫に報告をする。


「女王陛下。奸賊サージェスタは討ち取りました。つきましてはボルギアス陣営の領地に進軍し、奴らの土地を全て召し上げるのがよいと思われます」

「……そ、そうですね」

「敵はもう兵士も残っておりませんし、抵抗もしてこないでしょう。それでは速やかに進軍を……」

「あ、あの……」


 俺が言い終える前に、セリア姫が口を開いた。


 彼女は少しモジモジとしながら、言いづらそうに目線へ落とした後。


「ふ、フーヤは残ってもらえませんか? リーンが倒れているので、できれば頼りになる人が側にいてくれると……」


 可愛すぎかな? 気を張ってないと身もだえしそう。


 本来なら王都に綾香を残して、政務を行わせる予定だった。綾香の軍は少し機動力が低いので、俺の天馬陣で駆ける方が遥かに速いのだが……。


「承知いたしました。それならば進軍は我が臣下の綾香に向かわせましょう」


 少しくらい土地の召し上げが遅くなってもいいだろ!


 もう敵が反撃してくることはないし! それよりも俺がセリア姫の信頼を勝ち取る方がよほど重要だ!


 俺の最終目標はこの国を守ることではなく、セリア姫を助けることなのだから。


「ありがとうございます! 嬉しいです!」


 セリア姫はパアッと笑みを浮かべた。俺はこの可愛さを形容する言葉を持てない。


 推しキャラが目の前で、俺の名前を呼んで喜んでくれる。これほど冥利に尽きることはないっ……!


「あ、あの、フーヤ。ところでこれから私の側近に……」


 セリア姫がゴニョゴニョと言い始めた瞬間だった。入り口の扉が勢いよく開き、何者かが勢いよく駆け込んでくる。


「ひ、ひ、姫様ぁぁぁぁぁっぁあっぁぁ!!!!!」


 ……リーンだ。どうやら目覚めたようだ。


 実は彼女は毒を盛られていたのだが、俺がノースウェルにやってくる前に得ていた薬を飲ませていた。


 なのでそのうち治るはずだったが思ったよりも早いな。


「り、リーン!? 意識が戻ったのですか!? よか……」

「よくありません! ええい下がれこの下郎め! 姫をたぶらかす男がっ!」


 リーンは一気に走り寄って、俺とセリア姫の間に割り入る。目覚めたばかりの病人とは思えぬ動きだった。


「フーヤ! 貴様はあくまでノースウェルの領主! 姫様の側近はこのリーン・メルヘンのみでいい!」

「え、えっと、リーン? でも貴女も大変だろうし、もう一人くらい優秀な人がいてくれた方が……ほら貴女が右腕なら、フーヤは左腕みたいに」

「私が両腕になります!」

「ええっ……」


 リーンの魂の叫びに、セリア姫はたじたじになっている。


 ……確かリーンって、病的なまでにセリア姫が好きだったんだよな。たぶん俺は御邪魔虫の類なのだろうか。


 そんなことを考えていると、リーンは俺の方を睨んできた。更なる罵詈雑言を浴びせてくるのかと思ったら、彼女は俺に頭を下げてきた。


「……フーヤ、助かった。貴殿がいなければ、今頃セリア姫はどうなっていたか分からない。私も同様だ」

「そ、そうか……まあ気にしないでくれ」


 先ほどと勢いが違いすぎて驚きながらも、リーンの謝罪を手で制する。するとリーンは頭を上げて、


「だが貴様がセリア姫の側近になるのは不要だ! 私がやる! 貴様は私が倒れたとき以外は不要だ!」


 ……ああ、うん。


 セリア姫の心強い味方の復活を喜ぶべきか、俺の実質敵の誕生に嘆くべきか微妙なところだ。


「なので貴様はボルギアスの領地へ進軍せよ! 姫様は私が面倒を見る! 誰にも渡すものか!」


 こうして俺はひとまず、ボルギアスの領地へ進軍して土地を奪い返したのだった。




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 王城に与えられた一室で、シャルロッテは得物であるこん棒を見て震えていた。


「やった……! とうとう敵の大将首を討ち取ったぞ! 内戦というのが残念だが、これで私の武勇も少しは広まって……げふっ」


 シャルロッテは片手で口をおさえてせき込む。彼女の手には血がこびりついた。


 静まり返る室内。そんな部屋の静寂を消し飛ばすように、外の扉がドンドンとノックされる。


「化け物! 主様がお呼びですよ!」

「…………承知したぞ、人形屋! すぐに向かうからさっさと失せろ!」


 部屋の外から叫ぶ綾香に返事をした後、シャルロッテは自らの手についた血を見て顔を暗くする。


「…………そうか、もうあまり持たないか」


 小さく呟いた。



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一章はこれで終了です。

閑話挟んで二章にいきます。

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