第25話 魔法
俺は四千の軍を連れて王都から出陣し、近くの平野に陣取っていた。
彼らの前を進軍してくるのは、3mを超えた六千の巨人の群れ。
巨人兵は機動力を捨てた代わりに、攻撃防御共に異常に高い。まともに殴り合えば俺の軍でも結構な被害が出る。
そして巨人軍から距離を取るように、後方に控える首狩り将軍がいる。奴らとの戦いを控える以上、極力無傷で勝つ必要がある。削り合いは御免だ。
「ふぅ……」
少しため息をつく。本来ならば巨人の軍は、太陽剣で一掃するつもりだったのだ。
そうすれば正史の設定をあまり捻じ曲げずに、セリア姫を救うことが出来る。
セリア姫を救うこと自体が正史を狂わすので、せめて他のことでは変えたくなかった。世界が正史と全く別の情勢になると、俺の知識という絶対的優位が崩れ去ってしまうから。
「正史が変わったら、今後どうなるか読めなくなるなぁ……」
俺は今まで、ゲームの知識で優位を取っていた。だがこれからは通用しなくなる可能性がある。
本来起きないはずの大戦争が出現して、在野の武将が他の場所に移動してしまうかもしれない。
勝つはずの国が負けて、滅ぶはずの国が生き残るかもしれない。国の趨勢が変われば、商人などもきっと移動するだろう。
アイテムがどこにあるかの知識も無駄になってしまう。
シャルロッテも綾香もユピテルも、元のゲーム通りだったから配下にできたのだ。充電切れで使えこそしないが太陽剣だってそうだ。
…………本音を言うなら、最悪この国が滅んでもいいと思っていた。セリア姫を救うのが俺の目的なので、彼女だけ逃がして助ければいいのだと。
「なあシャルロッテ。お前はこの国や民が好きか?」
副官としてついてきた、いや連れてきたシャルロッテに話しかける。
彼女をひとりで王都に置いておくと、敵軍に突撃しかねないから……。
「……本音を言いますと、あまり好きではありません。私はこの国で仕官を断られ続けましたから」
シャルロッテは少し顔をしかめている。おそらく嫌なことを思い出しているのだろう。
「奇遇だな。俺も実は少し、いやだいぶ嫌いでね」
俺はこの国と、民に対してあまりいい感情を抱いてない。
理由は簡単。いずれセリア姫を処刑するはずだったから。
「そうなのですか? 鬼に幽霊に竜巻に、身を粉にして国を守っておりましたのに」
「俺は国を守っていたんじゃない。セリア姫を守っていただけだ」
客観的に見れば、セリア姫が処刑されたのは仕方がないのだろう。
もちろん彼女が無能なのも悪いし、民からすれば国を守れぬ王など不要ではある。
殺された理屈は分かる。そもそもこの世界では、誰もセリア姫を処刑なんてしていない。
だが俺は人間ができてないのだ、好きなキャラを殺すはずの奴らを好きと思えない程度には。
「……そうなのですか」
「そうだ。俺はセリア姫を守るためにだけ戦ってきた。だからこの王都と、国を逃げずに守る理由ができてしまった」
こちらに近づいて来る巨人の軍を睨む。
以前の鬼と比べてもより威圧感のある体躯は、もはや人間が挑むべきではないとすら思える。
奴らの岩のように硬い皮膚は、矢も通さず剣をも弾く。
ぶっちゃけ首狩り将軍に王都を渡して、巨人軍と潰し合わせるという策もある。
なんならそちらの方が絶対にいい。だがセリア姫の願いを、叶えてやらないとな。
さてこれ以上惜しんでも仕方ない。もう王都を守ると決めたのだから、切札を使う時が来た。
「……巨人ども、光栄に思えよ。お前らが受けるのは、十年以上後に生まれるはずの力だ! 《超重・魔導豪砲陣》!」
兵士たちの姿が変わっていく。
服装は宝飾の施されたローブになった。更に先端に人の顔ほどある宝石をつけ、身の丈ほどある巨大な杖を持っている。
まさに大魔法使いと呼ぶにふさわしい者が、二千人ほどこの場にたむろしていた。
超重・魔導豪砲陣。今から十年以上先に、千年に一度の魔導の天才が発明する陣形だ。そしてその者が発明した陣形を元に、魔導陣というものが解放される。
ゲーム的には超重・魔導豪砲陣が使われた時点で、他武将にも魔導陣が解放されていく。つまり俺が今使ったことで、おそらくその条件を満たしてしまった。
「さて敵は巨人の群れだ。本来ならば恐ろしい相手だが、我が軍は絶対に負けることはない! 総員、構え! 詠唱を開始せよ!」
「「「はっ!」」」
二千人の兵士たちが杖を構えて、呪文を唱え始めた。
ひとりひとりの足もとに、半径5mを超えるような巨大な魔法陣が出現する。大きすぎてあまたの魔法陣が重なっていく。
「「「神の雷、地獄の業火、天よりの雨戟。天変し導き地を砕け」」」
二千人の大魔法使いたちの、超強力な魔法の準備が完了する。
巨人たちはなおも馬鹿正直に、こちらに向かって前進し続けていた。
彼らはまだ知らない、ほんの一分後には……一匹残らず消滅するということを!
「……放てぇ!」
「「「
瞬間、空から光の大雨が降り注いだ。雨は巨人の軍へと襲い掛かっていく。
無数の光の雨は、巨人の身体を貫通して地上へと落ちて溶ける。奴らの強固な肌すら、何の障害にもならない。
「な、なんと……!?」
シャルロッテは光の雨を茫然と見ている。
この世界における魔導陣は、戦国時代の大砲や鉄砲みたいなものだ。
まさに時代のゲームチェンジャー。魔導陣のある年代かどうかで評価が一変する武将も多数いる。
特に超重・魔導豪砲陣は魔導系の最上級の陣形だ。
無論弱点はある。連射は効かないし、呪文を唱え始めた時点で降り注ぐ地点が決まっている。つまり足の速い部隊なら回避も可能だ。
だが足の遅い、しかもこの陣形の恐ろしさを知らない奴らには致命傷になる。
そして雨が止んだが、前方には何も残らなかった。六千いたはずの巨人が、死骸すら残さずに消滅した。
「フーヤ様……これだけの力があれば、敵など恐れるに足りませぬ! 何故今まで使わなかったのですか!?」
「魔導陣が強すぎるからだよ。これ原理自体は割と簡単でな……敵が今後真似して来る可能性が高い」
「…………っ」
シャルロッテは俺の言葉を理解したようで、顔をひきつらせた。
使ってしまったなあ……これで各武将に魔導陣が解放されたら、かなり面倒なことになってしまう。
今後は敵が強力な魔法を放ってくる恐れが出てくるのだ。流石に超重・魔導豪砲陣を使える武将はひとりだけなので、この光の雨ほどではないにしても。
しかもどこにどの武将がいるか分からなかったら、不意打ちで撃たれる恐れもある。他にも城壁が破られやすくなるので、攻撃側がかなり有利になってしまう。
「で、伝令です! サージェスタ軍が、こちらに向けて進軍してきます!」
俺は思わずほくそ笑みそうになった。
逃がすと困る敵が、自らこちらに向かってきてくれるのだから。巨人を倒すのにわざわざあそこまで派手な魔法を選んだ甲斐がある。
「よし! すぐに王都に戻るぞ! 軍を再編後、即座に首狩り将軍を倒す!」
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各国が大砲手に入れたら、戦国時代がクソゲーになってしまう(;´・ω・)
大阪冬の陣も大砲で終わりましたし。
どこかのドン・フランシスコは国崩しとか言ってましたね。
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