第24話 救いの手


 私は彼の、フーヤの言うことが信じられなかった。


 こちらの軍は多く見積もっても七千、対して首狩り将軍の兵士は一万六千。しかも巨人の軍団まで王都に近づいている。


 そんな状況からどうやれば、王都を守れるというのだろうか。


「……えっ? こ、こんな状況下から王都を守る?」

「はい。お任せください」

「で、でも兵力も劣っている上に、巨人の軍までいるのですよ……?」

「問題ありませんよ。物の数ではありません」


 私は目の前にいる人の言葉が信じられない。


 確かに彼は優れた武勇を持つ人だ。鬼や幽霊を退治した上に、竜巻まで防いだ英雄。


 天才的な才を持つ人、私とは真逆の。


「そ、そんなのいくら貴方でも無理です……相手は首狩り将軍、貴方と並ぶこの国の英雄ですよ!?」

「ははは。首狩り将軍が英雄? いえいえ、ただの謀反人でしょう?」

「そ、そういうことではなく!」

「ご安心を。私は絶対に、首狩り将軍とは比べ物にならないほど強い」


 フーヤは自信満々に笑っているのを見て、思わず目を落としてしまった。


 ……羨ましい。この人はあり得ないほどの才を持っていて、対して私はなにひとつできることがない。


「……すごいですね。なにもできない私とは、まるで比べ物にならない……」


 幼いころから努力してきたつもりだ。


 国を治めるために寝る間も惜しんで必死に勉強したし、時間を作って民の暮らしを直に見に行った。


 でも私は大して覚えられなかった。少し勉強すると頭が熱くなり、それでも続けると割れるような頭痛に襲われる。


 熱や頭痛が収まった後、勉強したはずのことが全く頭に入っていなかった。

 

 勉強だけの話ではない。他国と会談など行う時も、すぐに頭が真っ白になってしまう。結局のところ、私は何もできないのだ。


 まるで目の前にいる救国の英雄であるフーヤの、合わせ鏡のように。


「その通りですね。女王陛下と私では比べ物にならない」

「……ですよね」


 フーヤから言われても特に心に響かない。私が無能で価値がないのは、私自身が一番よく知って。


「女王陛下ほど優れたお方は、そうそういないでしょう」

「…………嫌味はやめてください。私はなにもできません……」


 あまりに酷い言葉と思った。だけどフーヤは真剣な顔で、私の目を真正面から見てくる。


「嫌味ではありません。貴女の民を想う心は、ただ力を得ただけの私などよりも遥かにすごい。私にはとても真似できません。私は貴女を救うためなら、王都も民も見捨てます」


 フーヤの目は本気だった。


 本気で私のことを、無能なだけの女王陛下と見ていない。


 確かに彼は王都を捨てて、他都市に逃げる提案はしていた。でもそれは間違ってなくて、


「私はどうしようもないから諦めただけで……」

「諦めるなら普通は逃げます。私は自分を犠牲にしてまで民を助けよう、なんて気持ちは起きません。ただ強いだけより、ただ政治ができるだけよりよほど優れた才です」


 彼の言葉が私の胸に響く。褒められたことなど、いつ以来だろうか。


 リーンが私のために無理やり慰めてくれていたくらいで……いや違う。


 生前の父上が、褒めてくれていた。忘れていた、思い出した。「セリアは優しいね」と頭を撫でてくれたのを、私は今まで忘れていた。


「……ありがとう、ございます」


 また泣いていた、今日何度目だろうか。


 でもこれは悲しさや恐怖ではなく、嬉しさだった。


「まだ礼は不要です、それは敵を全て撃滅してからにしてください。女王陛下、ご命令を下さい。私は貴女の臣下として、どのような命令でも叶えましょう。貴女の不足は私が補いましょう」


 これは夢なのかもしれない。


 突然現れた男が、まるで英雄のお話のように国の危機をなんとかしてくれている。


 そもそも鬼や幽霊の群れ、竜巻だって国の危機だったはずだ。


 もし対応を間違っていたら、この国は終わっていたかもしれない。でもフーヤは全てアッサリ解決してくれていた。


 そして今度は私を救ってくれるのだろうか。まるでおとぎ話で見た、白馬の王子様のように。私はもう姫ではないけど……。


 ドレスの袖で顔の涙をぬぐって、フーヤに改めて目を向ける。


「お願いします、フーヤ・エイク、敵を全て撃退してください」

「ははっ! このフーヤに全てお任せください! 王都の軍をお借りしますがよろしいですね?」

「もちろんです。王都も兵も自由に使ってください」


 フーヤはすごく余裕そうに笑っていた。


 彼なら何とでも出来るのではないかと、そう思ってしまうほどに。


「……あ、あとその。可能であれば、なるべく首狩り将軍の兵士は殺さないで頂けると……同じ国の民なので……ご、ごめんなさい。やっぱりなしで……」

「お任せください。全て叶えてごらんに見せます」





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 俺はセリア姫に笑いかけながら、どうすれば勝てるかを必死に考えていた。


 ここまで恰好つけた手前、もう王都から逃げましょうとか絶対に言えない。


 ……まあもう言うつもりもないけど。セリア姫が敵を撃退せよと望むなら、俺はそれを叶えるのが役目だ。


(セリア姫は本当にゲーム通りの、自分を犠牲にしてでも民を救う娘だった。俺が好きだったゲーム通りの)


 セリア姫は本当に凄いと思う。民のために自分の命を投げ出すなんて、俺には絶対に無理だ。


 俺は何故かチート能力を得て、この世界に転生できたのだ。そんな強い力をもらっておいて、ちょっと面倒な状況になったら逃げるなんてナシだな。


 目の前の少女は命を捨てる覚悟を見せたのに、俺が逃げようなんてダサいにもほどがあるだろう。


 そもそも投降なんてさせるかよ。そしたらゲーム通りにセリア姫が処刑されるだろうが!


 つまり俺はセリア姫を救うために頑張るべきだ。この力と知識、今に有効活用せずにいつ使うというのか。


 とは言え太陽剣は使えないので、巨人軍を正攻法で倒さなければならない。


 しかも首狩り将軍は絶対に逃がしてはならない。奴を逃がせば結局、この国は二つに割れてしまう。なんとしても討ち取るか捕える必要がある。


 ……仕方ない。本来なら使いたくなかったが、アレで何とかするか。


「ユピテルと綾香を王都に呼べ! まず巨人軍を撃滅した後、勢いのままに首狩りの軍を潰す!」


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訳 強く当たって後は流れで。

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