第23話 緊急事態は連続する
最後の四災である巨神に、疾風の首狩り将軍が王都にそれぞれ進軍してくる。
どちらも計算外だ。巨神の襲撃は二ヶ月くらい後のはずだったし、疾風の首狩り将軍に至ってはそもそもゲームではいなかったのだから。
とはいえ嘆いてもなにも始まらないか……。
「フーヤ様! いかがなさいますか! 王都で籠城戦されますか! それとも打って出ますか!」
シャルロッテが僅かに口元に笑みを浮かべながらも、真剣な顔で尋ねてくる。
だが即答できない、かなり難しい状況なのが本音だ。
「……巨人の軍とまともに戦うのは得策じゃない」
まず巨神だ。こいつに対する切札だった『魔神殺しの太陽剣』が使えない。
ソーラーチャージが溜まっていないからなぁ……充電忘れたスマホみたいだ。
なので巨神を迎え撃つのは、正当な手段で行うのは難しい。巨神は3mを超える巨人の群れのユニットで、機動力皆無の代わりに攻撃力と防御力が高い近強ユニットだ。
かなり厄介なユニットだったから、太陽剣で一掃する狙いだったのに……!
「うーん……とりあえず王都を守るべきか?」
「フーヤ様! ならばこのシャルロッテに王都の防衛をお任せください!」
「……お前に籠城戦は無理だ」
「なっ!?」
王都には魔法障壁があるので、籠城してひとまず時間を稼ぐという手も取れる。
だがシャルロッテに籠城戦は無理だ、どう考えても。飛んで火にいる夏の虫になるのが、火を見るより明らかだ。
「お、お待ちください! このシャルロッテ、必ずや活躍してみせます!」
「敵が門前まで押し寄せたら、間違いなく打って出るだろお前」
「…………そ、そんなことは」
「目を逸らすな目を」
シャルロッテは籠城戦というか、防衛戦全般で使ってはならない。
本来防衛戦とは、城壁や設備や罠を用意して待ち構える戦い方だ。だがシャルロッテは暴走して勝手に動くし敵に突撃していくので、防衛戦のメリットを全てかなぐり捨てる。
籠城戦とか絶対にやらせてはいけないタイプだ。というか突撃以外の作戦で使おうとするのが愚か。
「……ひとまず王都を撤退するのも手か? 疾風の首狩り将軍もセリア女王を悪いようにはしないはず……巨神をなんとかしてから、また王都に戻るというのも」
太陽剣なしで巨人軍を倒すのは、可能なら避けたいのが本音だ。もちろんセリア姫を見捨てるわけではない。
二ヶ月待って太陽剣が使えるようになったら即座に王都に戻り、首狩り将軍の軍勢を倒せばいい。それが最も地に足がついた確実な勝ち方だ。
なんなら首狩り将軍の軍と、巨人軍が潰し合ってくれる可能性まである。
「それは難しいと思います」
だがシャルロッテが首を横に振った。
「何故だ?」
「首狩り将軍が声明を出しています。主君ボルギアスを討ったフーヤ様と、それと結託したセリア女王を許さないと。あの女王が統治を始めてから、災害が巻き起こっている。我らがこの国を治めなければ滅ぶと」
「……はあ!? その首狩り将軍はそんな杜撰な計画で、この国を乗っ取るつもりか!?」
滅茶苦茶だ!? 大義名分もあったものじゃない!
……と言いたいのだが、セリア姫が女王になってから天災が頻発してるのは事実なんだよな。
自然災害のせいで王が見捨てられるのは、実は日本の歴史でもあるのだ。
例えばあの有名な武田家もそうだ。浅間山の噴火で民や臣下に見捨てられたのが、致命傷となって滅亡したと言われている。
王が神に見捨てられているというのは、王を滅する理由になってしまうのだ。特に神が実際にいるこの世界においては。
「そもそも攻めてくるの早すぎる上に、ボルギアスは別に死んでないのだが……なあ、首狩り将軍って野心家か?」
「かなりのものだと思います」
シャルロッテの返事を聞いて更に考えてみる。
推論なのだが…………首狩り将軍はボルギアスも用済みと殺すつもりかも。
それならボルギアスの雑な動きにも合点がいく。奴は首狩り将軍に踊らされていたのでは?
「シャルロッテ、巨人の軍の兵数は分かるか?」
「お待ちください、部下に聞いてまいります」
シャルロッテが玉座の間を出て行くのを見つつ、さらに思考を整理する。
ようはこれはボルギアスというよりも、首狩り将軍の下克上なのでは!?
首狩り将軍は自分の主君が殺されたので、弔い合戦と称して王都に進軍する。そうして無能な王であるセリア姫を殺して、自分がそのまま国を乗っ取る。
かなり雑な策ではある、もしこれが普通の王相手なら通用しないだろう。だがセリア姫は民からの評判が決してよろしくない。
しかも神が認めないかのごとく、天災の類がいくつも発生しているのだ。多少ゴリ押しでも言い訳が聞くと思っているとか……。
「そ、そんな……ど、どうすれば……」
セリア姫はすごく焦った様子だ、顔が青くなっている。
弱ったな、これだと王都が占領されたらセリア姫が殺されてしまうかも。そうなるとここは……。
「……女王陛下。一度、ノースウェルにお逃げなさいますか? そうすれば御身は私が守ります」
セリア姫をノースウェルでかくまうのだ。そうすれば首狩り将軍に捕縛されることはない。だがセリア姫は困った様子でうつむいている。
「…………もしここで私が王都を離れたら、この国や民はどうなるのでしょうか」
おそらく泥沼の内乱になるだろう。一時的とは言えども一つの国に王が二人いる状態になるのだから。しかも巨人軍まで側にいるし。
ただ俺の力であればなんとかなる。首狩り将軍を討伐してから、国を立て直していくのは可能だ。国が荒れて民は苦しむだろうが……セリア姫の命には代えられない。
「私が必ずや女王陛下を王都に戻れるようにいたします」
「……民はどうなりますか?」
セリア姫は俺を強く睨んでくる。どうやら誤魔化しは無理そうだ。
「苦しむことになるでしょう。王都を奪われるということは、首狩り将軍が国の中枢を得たアピールになります。奴になびく有力者も多くなる」
城や王都などは象徴だ。この周辺の土地は私が支配しているぞという。
ようは民たちが誰に従えばいいかを、城などの象徴で示している。なので城が敵に奪われるというのは、軍事拠点が奪われたというだけにはならない。
城周辺の民たちも、奪った敵に頭を垂れてしまうのだ。
「……ひとまず巨人の軍を相手取るため、停戦というのは」
「無理でしょうね。奴らは何よりまず、この国の掌握が最優先でしょうから」
深刻な顔で黙り込むセリア姫。
彼女はすごく民想いだ。ゲーム内の彼女の性格や言動を考慮すると、すごく嫌な予感がしてきた。王都を逃げるのに誘導しないと!
「ですが女王陛下が気に病むことではありません。首狩り将軍が滅茶苦茶な論理で」
「……私が降伏したら、内乱は起きずに済みますか?」
「そんなことをすれば、間違いなく殺されますよ。首狩り将軍の声明は、貴方を処刑すると言っているに等しい」
セリア姫の処刑シーンが脳裏によぎった。
ここで降伏などしたら、間違いなくあの処刑シーンの再現が行われる。下手人がボルギアスから首狩り将軍になるだけだ。
「……でもそうすれば、国での内乱は起きません。たぶん全部私のせいなんです。私が無能だからボルギアスも首狩り将軍も謀反を起こした。女王に相応しくないと神様が災害を起こした」
「いえ違います。それは悪魔の仕業で……」
「慰めて頂きありがとうございます。でも……私が悪いんです。せめてこれまでの罪は、償います。せめて巨人の軍に対して、一致団結して立ち向かわないと」
セリア姫は意を決したように玉座から立ち上がる。
その顔は涙でぬれていた。それほどまでに怖がっているのに、責任を取るために殺されると言うのだ。
「……リーンのことをお願いできますか? 貴方はこの国にはいられなくなるでしょうから、彼女を連れて逃げて頂きたいのです」
震えた声で告げてくるセリア姫。こんな時まで他人の心配をするのか……本当にゲーム通りの性格だ。
だからこそ……そんなことを認めさせるわけにはいかない。
「お待ちください、女王陛下! 私に策があります! 王都を守り、巨人を滅ぼし、ついでに首狩り将軍も倒す策が!」
なら出し惜しみはなしだ。リスクがとか言ってる場合じゃない!
---------------------------------------------------
書き終わってから気づいたんですが、これって足利義輝が殺された永禄の変……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます