第4話 鬼退治


 俺は鬼の一体を粉砕して感極まっていた。ようやく動き始める時が来たのだと。


 この世界に転生してから二ヶ月ほどが経つ。


 俺は色々と試した結果、この世界が『アルテミスの野望』であると確信した。


 しかもオリジナルキャラの姿になってだ。俗にいう転生というやつだろう。


 今の姿は赤髪の高校生くらいの見た目だが、能力はこの世界でもトップクラスの力を持つフーヤ・レイクというキャラになっている。


 なにせ俺が作ったチートキャラだ、正直言って物凄く幸運である。


 地球に戻れないのかなども僅かに悩んだが、それ以上に俺は『アルテミスの野望』の世界にやって来たことに胸躍らせた。


 しかもだ、なんと……俺がやって来たのはセリア姫が処刑される少し前。配信予定だったセリア姫を助けられるシナリオの年代。


 つまり俺は……あのセリア姫を救えるのだ。いやそれどころか本物を拝顔することすら……心が躍る!!!


 そこからはこのエルス国、というかセリア姫を救うために動くことにしたのだ。


 急いでエルス軍に入って、今は王都の警備小隊長へと成り上がっている。


 短期間で成り上がった方法? 当然ながら手柄を立てるのはもちろん、ゲーム知識で宝物とか集めて……上司などに心ばかりのブツをね。


 知識通りに宝があったことも、ここがゲーム世界と確信している理由のひとつだ。


 そしてとうとう一つ目の死災が訪れた。


 警備隊本軍が壊滅し、隊長が死亡したのだ。なので俺は小隊長として代理で、自由に軍を扱う権限を得た。


 ……本音を言えば目の前の惨事も防ぎたかった。だが警備小隊長までしか出世できなかった俺には、本隊が壊滅するまで出陣する権限がなかったのだ。


 俺は後方に控えるちょうど三百の兵士に振り向いて叫ぶ。


「総員! 敵は悪鬼羅刹の軍勢! だがこのフーヤ・レイクならば恐れるに足らず!」

「「「「「おおおおおおお!!!!!」」」」」


 兵士たちが俺の宣言に呼応して叫ぶ。


 彼らは先ほどの本隊蹂躙を遠目で見てもなお、いささかも士気が落ちていなかった。


 先ほどやられた兵士たちと、俺の後ろにいる兵士の素の強さに差はない。なら二千の兵士で完敗したのに三百で抗うなんて無謀と思うだろう。


 だが……俺というチート武将が率いることで、この兵士たちは一人一人が一騎当千の力を得る!


「総員、突撃せよ! 無惨に殺された兵士の仇討ちだ!」

 

 俺の指示に従って兵士たちが突撃していく。


「ふ、ふん。どうやら奇跡的に俺達の仲間を倒したことで、勘違いしているようだなぁ!」


 鬼たちは動揺しながらも強気を取り戻していた。だが虚勢のようにも見える。


 強がるというのは重要だ。特に戦いにおいて敵に気持ちで負けていては、勝てる戦も勝てないのだから。


 そうして先頭の集団同士がぶつかり合う。


「偶然がまた続くと思うなよ!」


 鬼のひとりが金棒を振るうと、それに合わせるように兵士もメイスで反撃する。


 メイスと金棒がぶつかり合うが……鬼の持つ金棒は根本の柄部分を残して無惨に砕けた。


「……は?」


 鬼は自分の手に残った金棒の柄を見て唖然とする。その隙に兵士はメイスを鬼の胴体に向けて横なぎに一振り。


 鬼の身体はメイスの一撃ではじけ飛んで肉塊となった。


 他の兵士たちも同様に鬼を蹂躙していた。一兵卒が桃太郎のように鬼退治をする光景が、いたるところで繰り広げられている。


「今こそ仇を取るんだ! 進めぇ!」


 俺は兵士たちに命令を下しつつ、自分も近くにいた鬼を盾で撲殺した。


 グロイ光景だが恐怖などは出てこない。フーヤというキャラになったおかげか、以前の俺よりもだいぶ胆力がある。


 何故、俺の率いる軍がここまで強いのか。それはこの世界の兵士は、率いる者の力の何割かを得ることができるからだ。


 優れた武将が軍を率いることで、兵士たちの強さが大きく変わる。他にも武器や装備なども、武将によって扱えるものが変わる。


 俺というチート能力武将が率いることで、兵士たちは鬼にも勝る膂力を得ていた。


 更にこの『黒装・破魔陣』も、本来ならとある武将しか扱えない特別兵科だ。装備に大量に書き込まれた経文によって、対魔物においては最強を誇る兵科陣形。


 優れたステータスの兵士が、敵へのメタを敷くのだ。負ける要素などない!


「ど、どうなってやがる!? 我ら鬼に抵抗できる者などいないはず……!?」

「そうだな。本来ならいない」


 俺は一回り大きい鬼の大将にゆっくり近づいていく。


「き、貴様! 何者だ!?」

「俺はフーヤ・レイク。貴様らを、殺す者だ!」


 自分の名前を高らかに叫ぶ。後方の都市の民衆にも聞こえるように。


 俺は渾身の力で、鬼に向けてメイスを振るう。鬼の大将は金棒で防ごうとするが、その鉄の棒ごと粉砕して鬼の上半身を吹き飛ばした。


「鬼の大将、討ち取ったり! さあ手柄の稼ぎ時だ! 鬼退治を続けようじゃないか!」

「「「「「うおおおおおおお!!!!!」」」」」


 こうして鬼たちは蹂躙された。膂力自慢の鬼が力で負けては、勝ち目などないに決まっている。


 ……これで死災の一つ目はクリアだ。


(さて問題はここからだ。本来ならこの国は滅ぶ。だが俺の力があれば何とか……)


 俺は自分の転生したキャラの能力を再び脳裏に浮かべる。


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フーヤ・レイク


攻軍:LV94

防軍:LV91

内政:LV92

魔軍:LV99


スキル

『千変万化』

(布陣後兵科変更可能)

『八百万兵科』

(全兵科使用可能)

『人徳の極』

(臣下忠義↑↑)

『天眼』

(自軍や敵軍のデータ可視)

『メルキニアの戦神』

(攻↑↑↑↑、防↑↑↑↑)


兵科陣形

『全陣形使用可能』

(八百万兵科により)


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 各能力値は軍を率いた時、兵士がどれだけ強くなるかの値だ。


 最大値はLV100で、俺のステータスの合計値は武将の中で最大。つまりトップクラスの能力。


 攻軍は兵士の攻撃力、防軍は兵士の防御力。内政は率いた兵士が工事などを上手く行えるか。魔軍は……今のところは使うつもりがないので割愛。


 各能力は武将個人の力ではないのでそこだけは注意だ。攻軍と防軍が高い武将で率いる兵士は一騎当千でも、本人はヒョロヒョロもやしとか普通にある。


 スキルは『アルテミスの野望』に存在する中でも、最強クラスのものを五つ揃えている。


 それこそもし日本戦国を舞台にしたゲームなら、織田信長や豊臣秀吉などのトップクラス武将が持つであろう専用スキル。一つでもあればチートと言われる類のモノを五つだ。


(ただ問題はこのゲームが軍を率いる戦闘なことなんだよな)


 これがバトル漫画の類なら個人で百万軍に匹敵とかで、正直味方いらなくね? とかになる。


 だがこの世界では軍を率いることで力を発揮するので、俺がチートクラスでも無双に限度がある。


 俺が三百の軍勢を率いれば、敵の凡武将の三千に勝てるだろう。だが敵が六千出して来たら正攻法では厳しい。


 つまり国力差があり過ぎる相手となると、俺の力をもってしてもカバーしきれない。それにトップクラスの武将が相手ならば、勝てるとは言えどもそこまでの圧倒は難しいのだ。


 後は敵国が四方から攻めてきたりしたら、俺の率いる軍が対応できるのは一方面だけになる。その間に王都を占領されたら終わりだ。


 結局このゲームは軍を率いる国盗りゲーなので、どれだけ強くても一武将での無双には限度がある。俺以外にも強い武将を集めなければならない。


 なのでエルスの国力を上げて、他にも強い武将を集める必要がある。


 まず急務で四災への対処だ、このままでは敵国とか以前に自国だけで滅んでしまう。


 それが終わったら他国への備えをして、この国を滅亡させずに生き残らせるのだ!


 そんなことを考えていると、兵士の一人が息を切らせて俺に近づいてきた。


「しょ、小隊長! 伝令です! 今回の活躍に褒賞を与えるので、王城へと出向くようにと!」

「承知した。すぐに向かう」


 強い武将を集めるには、俺自身が出世して部下として雇う必要がある。そのために鬼退治をして手柄を立てたのだ。


 さてここからが始まりだ。俺はセリア姫を守り続けて、このゲームをクリアしてやる!



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やりたいことは『弱小国にチート武将突っ込んで、強い武将集めて強国との戦力差覆して勝つ』、『チート武将が強い理由を明確にする』です。

戦国時代で例えるなら、足利義昭で信長と対立して天下統一とか。


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