芽が出ない

栗亀夏月

芽が出ない

ユキは小学校からの下校中、近所で有名なお花畑おばさんに会った。

おばさんは広い庭に年中綺麗な花を咲かせている。

素晴らしい管理者だった。

「こんにちは」

ユキが挨拶する。おばさんは、花を手入れをする手を止めると、「こんにちは」と言って手を振った。

「ユキちゃん。もし良ければひまわりの種あげようか」

そう言うとおばさんは黒と白のしましまの種を10粒ほどくれた。

「ありがとう」

元気に答えるユキ。おばさんは微笑み返すと、植えた方や育て方を丁寧に教えてくれた。


ユキは家に帰ると母親に、プランターを出してもらい庭の土をシャベルで入れると、おばさんに言われた通りに種を植えた。

3つのプランターに分けて植えたが、外に置いておくと鳥に食べられる可能性があるので、ユキの部屋の窓際に置くことにした。

5日から1週間で芽が出ると聞いていた。


ユキは頭の中が種の事でいっぱいだった。

授業中は常に芽が出てないか気になった。

下校も寄り道せずに走って帰った。

ご飯中も頭の中はひまわりのことでいっぱいだ。


種を植えてから5日が経った。

朝は芽が出ていなかったが、家に帰ったら芽が出ているかもしれない。

ユキが玄関を開けると、母が少し怒った顔で立っていた。

「お母さん。ただいま」

「おかえりなさい、ユキ。さっきチョコの小屋の扉が開いてたわよ。逃げ出したらどうふるの。それに、ご飯もあんまりあげてなかったんじゃない、ちゃんと面倒を見なさいね」

「わかった」

ユキは正直チョコの面倒を見るのより、種の事が気になっていた。

部屋にいるチョコは確かに少し怒った表情をしているように見えた。


それから1週間が過ぎた。しかし、芽は出ない。ひとつも芽がでないのだ。

ユキは泣きながら母に訴えた。

「ちゃんと水もあげてたのに、どうして芽が出ないの!」

「お母さんには、分からないわ。今度種を買ってきてあげるからもう一回チャレンジしましょう」

プランターの片付けはお父さんがしてくれた。


再挑戦は大量のひまわりと今が植える時期だという、かぼちゃの種だった。

それから一週間、ユキはワクワクしていた。

宿題をする事も、風呂に入ることもめんどくさく思えるほど、種から芽が出ることだけを祈っていた。

芽が出たらどこに植えようか、どれくらいの大きさになるのか、どんな花を咲かせるのか。とても楽しみだった。


しかし、芽が出ることは無かった。

その夜、プランターを片付けてくれる父が驚いで声を出した。

「ユキ。種を深く埋めたのか、種がないぞ」

その言葉にユキは驚いた、

「そんなわけないよ。ちゃんと植えたもん」

父は別のプランターもひっくり返して、調べたが種は見当たらなかった。


「ねぇ。お母さん。また種買ってきてくれる?」

ユキは懇願した。

もちろん母も、熱心になってくれることは嬉しかった。

自分も昔は様々な花を育てていた事を思い出した。

「分かったわ。今度こそ頑張って育てましょうね」


翌日、家族3人で種を植えた。

父もネットで情報を調べて、完璧な状況で種を植えることが出来た。

「よし。これであとは芽が出るのを待つだけだね」

父が言う。

「そうね。チョコの面倒もちゃんと見るのよ」

母がチョコの小屋を見ながら言った。

「わかってるわ」

ユキは自信満々に答える。

「チョコは犬と違って散歩しなくてもいいからな。しっかり餌をあげるんだぞ」

父がそう言うと部屋を出て言った。

ユキはプランターを覗き込んで、芽が出るのを待ちわびた。


それから

一週間が経っても、二週間が経っても芽が出なかった。

ユキは怒った。

「あんなにちゃんと植えたのになんで!水もあげてるのになんで!」

「変だな。土が悪いのかな、それとも温度が低かったのかな」

父も困り果てている。

ユキは泣いていたが、翌朝には普通に登校した。

父が捨てたプランターの土の中には種はひとつもなく。完全に消えていた。



母は昼間家の掃除をした。

ユキの部屋に入ると、机の上にひまわりの絵やかぼちゃの絵が置いてあり、申し訳ない気持ちになった。

ユキのペットで、シマリスのチョコの小屋を見ると、扉が開いており、また餌が無かった。

「ユキったら、チョコに餌をあげ忘れてるわ。それにこの扉もなんですぐに開いちゃうのかしら」

母は扉を閉めて、餌入れを取り出すと、シマリス用の餌を入れた。

小屋に戻すが、チョコの食べは悪い。

「あら、お腹空いてないのかしら」

母がチョコの小屋の端の方を覗くとあるものがたくさん落ちていた。


それは、ひまわりやかぼちゃの種のカラだった。

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芽が出ない 栗亀夏月 @orion222

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