10. ゆるふわと事件発生!?

第72話

 夢を、見ていた。


 ふわふわの良い匂いに包まれながら、幸せいっぱいの気持ちになって。


 この柔らかい何かは、やっぱりお布団なのだろうか。

 目を開けなきゃなあ、と思うのだけど。幸せすぎてもう少し眠っていたい。


 だけど、誰かに呼ばれて起こされた。


「……さん。円城寺さん!」

「……ふぇっ、あ、は、はい!」


 その声で、ぱっちりと目が覚めてしまう。

 目の前にいたその人は、わたしが、好きな、人で。


 それこそ夢みたいなシチュエーションなのだけど、そこにはエプロン姿の山本さんが立っていた。シンプルな生成色のエプロン、よく似合ってるなあ、なんて思う。


 と、いうわけで、朝だった。

 ……ああ、どこからともなく鳥が鳴いている声が聞こえる。


 わたしのいるのは贅沢なサイズのセミダブルベッドの上で、夢で見たふわふわのいい匂いの正体は、お布団で。つまり。


 どうやらわたしは、山本さんのベッドを占領して爆睡していたみたいだった。


「山本さん……エプロン姿……かわいい」


 寝起きのわたしの口からは、ついつい思ったままの言葉が出てきてしまうのだけど。


「何バカなこと言ってるんですか。起きてください。……朝ごはん、食べられますか?」


 山本さんがそんなびっくりするようなことを言うもんだから。


「え! 朝ごはん!? 山本さんの手作り! ありがとうございます! 食べます!!」


 ついついテンションが上がって、がばっと身体を起こしてしまった。


「朝から元気ですね……。昨日あれだけ飲んでたのに」

「朝ごはんがあるって聞いたら、そりゃ元気出ちゃいますよ!」


 ああもう、ほんと、わたしってば、つくづく食い意地が張っている。

 なんだかお魚の焼ける匂いがするから、きっと和食かな。


 洗面所を借りて顔を洗ってから、リビングの方へ向かう。


 山本さんのお部屋は2LDKだから、本当はダイニングもあって、普段はちゃんとそっちでごはんを食べているらしいんだけど、ダイニングテーブルの横にはなぜか椅子が一つしか置かれていなくて。


 だから、二人で食べるには、リビングに置いてあるローテーブルのほうに行く必要があるのだ。


 わたしがテーブルに着く頃には、すでに山本さんがお皿を並べてくれていて、そこにはおいしそうな朝ごはんが用意されていた。


 ほかほか湯気が立っている白ごはんと、お味噌汁。脂の乗った鯵の開き。そして……。


「わぁー卵焼きだっ!」

「今日のは、しょっぱいやつですけど、いいですか?」

「はいっ!」


 山本さんが作ってくれていたのはチーズ入りの卵焼きで、中には小ネギも入っていた。

 いつぞやランチのときにもらったのは甘い卵焼きだったけど、しょっぱいのも美味しい。

 確かに山本さんの作る卵焼きなら、日替わりでいろいろな味のものを食べてみたくなる。


「昨日のおつまみのチーズ、溶かして入れちゃいました」

「美味しい……チーズ入りの卵焼き、ごはんに合うんですね」


 もう、美味しいのと、山本さんが朝ごはんを作ってくれたっていうのとで、頭の中が蕩けてしまいそう。


 いや、もう蕩けてしまっていた。手遅れだ。


「山本さん、いつもこんな朝ごはん作ってるんですか?」

「いや、さすがに一人のときはここまではしないかな……今日は特別、です」


 わああ、特別、だって。


 どういう意味かはわからないけど、その言葉に、なんだかドキドキしてしまうのだけど。


 山本さんは急に真面目な顔をして言った。


「食べ終わったら、ちょっと話しませんか。……その、昨日のこと」

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