9. ふわふわしてる場合じゃない
第66話
深夜二時。どうしても気になって眠れなくて目が覚めてしまう。
気になるのはもちろん、あのこと。
その……円城寺に『好きです』なんて言われてしまったこと。
まさかそんな。あんなに男と合コンなりデートなりを繰り返している、『男好き』なんて噂されてしまうような円城寺が、そんなこと言うなんて。
いや、よく考えたら、あの『好き』が恋愛の『好き』だとは限らない。
円城寺はあくまで、仕事の、とか、そういう文脈で、私のことを好きだと言ったのかもしれないし。
うん、なんかそんなような気もする。
円城寺も酔っていたわけだし。
……だけど。
頭の中は、あのときの円城寺の潤んだ目が、私のことを真っ直ぐ見つめたあの表情でいっぱいで。
どこかで見たことがあるそれを、『恋愛じゃない』なんて断定することは、私にはできなかった。
*
あの後、水族館デートの後、すぎに江藤からスマホに連絡が来た。
どう返すべきか悩みつつ、翌週に会社に来ている時に返信をした。本来、会社にいるときくらいしか、私の社交性は発揮できないし、そもそも家にいるときにこんなタスクをこなしたくなかった。
そう、私はいつだって、家でゆっくり、一人きりで過ごすのが好きなのだ。
友達や恋人がいないのも、作れないというよりは、プライベートの時間を削られるのが嫌すぎて、いろいろな誘いを断っているうちに疎遠になってしまうだけなのだ。
そんなことは自分でもわかっていた。
そんな私だったから、水族館デートの後にもう一度、江藤からデートの誘いが来た時には、なんだか憂鬱になってしまって。
別に水族館自体は何も悪くはなかったのだけど、またあの緊張に満ちた気まずい時間を過ごすのはごめんだった。
だけど。
頭の中には、いつぞやの円城寺の発言が思い出される。
『ドキドキする人、いますよ』って、カフェでふわふわのスイーツを一緒に食べた時、円城寺は確かにそう言っていて。
そのときの彼女の表情が、すごく可愛かったものだから、私までドキドキしてしまう始末で。
私にも『ドキドキする人』がいたなら、あんなふうに可愛い女になれるのだろうか、なんてことを、思ってしまった。
もちろん、円城寺みたいな飛び抜けた可愛さを得られるなんて思ってはいないけど、少しはマシにならないだろうか、とか。引きこもって一人でばかりすごしている自分を変えたい気持ちもあった。
だけどなにより、切実だったのは。
円城寺が誰か他の人とデートしている姿を想像したら、胸が苦しくてたまらなくなること。
そう、これは嫉妬なのだ。明確に。
きっと私は円城寺みたいに可愛い女に生まれなかったことを僻んでいるのに違いない。
……なんて、惨めなんだろう。
たいした容姿でない上に、性格までこんなに悪いなんて、と思う。
そんな自分を、変えてしまいたくて。
円城寺みたいに、素直な人間に、少しでも近づきたくて。
だから私は、江藤ともう一度会うことを決めたのだった。
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