第47話

 それは、ある日の帰り道のことだった。


「今度スイーツでも食べに行きませんか?」


 残業帰り、山本さんと二人きりになったわたしは、なんと彼女にスイーツデートの提案をしてしまったのだった。


 いつものことではあるのだけど、今日は久しぶりに大きなミスをやらかしてしまって。そのせいで山本さんをいっぱい残業させることになってしまったから、申し訳なくて。お詫びにスイーツをご馳走しようと思ったのだけど、まあそれだけが理由じゃない。


 結局わたしは、単に山本さんとスイーツデートがしたいだけなのだ。


 ちょうど何度か行ったことのあるお気に入りのカフェでは、レモンスイーツ祭りをやっているところで、レモンを使った美味しそうなチーズケーキのメニューがあった。


 チーズ大好きな山本さんなら食いついてくれるんじゃないかって思って提案してみたら、案の定。


「行きます」


 即答だった。真顔で答えるものだから、笑ってしまう。

 でもそんなことよりも、山本さんと一緒にスイーツを食べられることが嬉しくて、わたしはついついはしゃいでしまう。


「じゃあ、約束ですよ?」


 山本さんの右手の小指に、わたしの小指を寄せて。


 指切り。


 良い歳して子供みたいだけど、いいんだ。だって、嬉しいんだもん。


 こうしてわたしたちは、次のノー残業デーの日に、一緒にスイーツデートをすることにしたのだった。



 *



 待ちに待ったノー残業デー。スイーツデート当日。もうこの日が来るのが待ち遠しくて、手帳と毎日にらめっこする日々だっただんだから。


 今日はいつもよりも更に念入りにメイクをして、お気に入りのスカートを選んだ。レモンのスイーツの日だからって、黄色のピアスまでつけちゃったのは、ちょっと浮かれすぎだったかもしれないけど。


 そうそう、忘れちゃいけない、今日は仕事のほうも、今まで一生懸命作ってきたツールのテストの日で、がんばらないといけないのだ。


 もしも何かトラブルがあって、木村さんたちに怒られたりしたらどうしようと思うと不安だけど、でも山本さんがいるから大丈夫、っていう勝手な安心感がある。


 人任せすぎてちょっと申し訳ないけれど。


「おはようございます!」

「あ、おはようございます」


 会社に着いて、元気いっぱいで山本さんに挨拶する。山本さんは相変わらずの真面目な雰囲気だったけど、心なしか、いつもよりも明るい色味の服装をしている。


 あ、今日のデート、ちょっとは意識してくれてるのかな、なんて、ついつい調子に乗ったことを考えてしまいそうになっていると、山本さんがぼそっと呟いた。


「……円城寺さん、なんか、可愛いですね」


 え、今。なんて?


「え……? あ、ありがとうございます!」


 不意打ちの褒め言葉に驚いてしまって。それから少し遅れて、恥ずかしさがやってきた。


 人に容姿を褒められるのは慣れているし、今までは可愛いと言われてもなんとも思わなかったのに。


 いつもより気合いを入れたところを褒められたから照れてしまっただけなのか。


 それとも、それは、相手が山本さんだからなのか。


 胸の中が、とくん、と鳴る。


 落ち着かない心を持て余したまま、始業を告げるチャイムが鳴るのを聞いていた。


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