第44話
大量のミスプリントを出したわたしは、当然のように木村さんにこっぴどく叱られた。
ミスをしたのはもちろんわたしが悪いけれど、今回は『給料泥棒』とまで言われてしまったので、さすがにちょっと凹んでしまう。
週末からのこともあって、泣いちゃいそうになるのをなんとか堪えていると、そこへ突然、山本さんが現れた。
「こっちの仕事もたまってるんで、悪いんですけど、円城寺さんこっちに渡してくれると助かります」
そう言って、わたしを木村さんから引き離してくれて。
それから、話の流れで、山本さんがやっているらしい『ペーパーレス対応』の話を教えてもらったのだ。
なんでも、『電子帳簿保存法』とかいう法律のせいで、うちの会社で使っているような紙の書類はなるべく無くして、メールなんかでやりとりした請求書のデータとかも、全部電子データで保存しなければならなくなったらしいのだ。
それに伴って、うちの会社も、全ての課の業務でペーパーレス対応を進めていく方針に切り替えたのだとか。
わたしの仕事は、パソコン仕事もあるけれど、紙の帳票類のファイリングとか、届いた郵便物を仕分けてみんなに配ったり、請求書の宛名を書いたり、ついでに営業さんが持っていく資料を印刷したり、といった紙に囲まれた業務が中心だ。
だから、ペーパーレス対応が進んでしまったら、わたしの仕事はもしかしたら無くなってしまって、最悪の場合リストラ、なんてこともあるんじゃないかとか、いろんなことが頭に浮かんだ。
「まあ、すぐに仕事がなくなると決まったわけじゃないし。今からスキルアップとかさ、がんばればいいんじゃない?」
山本さんはそう言って慰めてくれたのだけど。パソコン仕事が苦手なわたしは、一体どうすればいいのかも見当がつかない。
右隣で軽快にキーボードを叩く山本さんを見ては、ため息をつきたくなる気持ちをこらえて頑張る毎日が始まったのだった。
そんな、ある日のこと。
いつもは軽快な打鍵音を響かせている山本さんの手元が、今日はずいぶんとゆっくりしている。
なんとなくぼーっとしているようにも見えるし、顔色も悪いような気がした。
「山本さん、大丈夫ですか?」
声をかけると、ハッとした様子で復活した。
どうやら最近残業続きで、寝不足だったとのことだった。
「最近忙しそうですよね……何か私にできること、ないですか?」
「うーん」
思い切ってそう言ってみるけれど、山本さんは悩んでいる様子だ。
確かに、わたしなんかが役に立てることなんてないかもしれない。
かえって邪魔になってしまうかもしれない、そう思っていると、山本さんからは意外な返答が返ってきた。
「結構、きついと思うけど。……やってくれる?」
そう言ってくれただけでも、嬉しくて。
「わたしにできることなら、なんでもします! 山本さんが少しでも楽になるなら……」
心からそう思って、わたしは答える。
すると山本さんはすぐに川島さんのところへ行って、何やら話を始めて。ちらちら様子を見ていたけれど、そのうち木村さんもやってきてみんなで話し合いを始めて。
そのあと、わたしも呼ばれて。
そうしてわたしは、山本さんの専属アシスタントになったのだった。
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