第43話

「はぁ……疲れた」


 月曜からため息が出る。もう、本当に憂鬱。


 この間の土曜日は、アキラ君とデートで。


 初めはただご飯を食べに行こうという話だったんだけど、でも結局やりとりをしているうちに、映画も観ようっていう話になって。


 待ち合わせした後は、カフェでおしゃべりしながらランチを軽めに済ませて、午後からの映画を観た。


 映画はアキラ君が観たいと言っていた邦画のラブストーリーで、ちょっと泣ける話だった。


 一緒にポップコーンをつまみながら、さりげなく手に触れられたりとかしたけれど、あまり気にならなかった。


 ああ、いつものやつね、って。そう思ってしまって。


 あれ? でも、そんなことを思う程度には、わたしはもう何度もデートをしているのかもしれない。デートがなんなのか、まだまだちっともわかっていないというのに。


 でも、これだけデートを重ねていて、なんの発展もなくても、それでもわたしが恋愛を諦めていないのは、きっとどこかに、わたしがときめいて、ドキドキするような、そんな出会いがあるはずだって、そう信じているからだ。


 だけど……さすがに疲れた。


 映画館のあと、夕食もおごるよ、なんて言ってくれて、ワインが美味しいおしゃれな肉バルに連れて行ってくれたんだけど。


 そのあとが問題だった。


 アキラ君の家は、そこから徒歩圏内だって聞いていたけど、その時点で気づけばよかった。彼はその日のうちに、わたしをお持ち帰りしようとしていたみたいだった。


 選んだ料理に合わせて、アキラ君はいろんな赤ワインをお勧めしてきて、せっかくだからいっぱい飲んでみようよ、なんて言われて。


 わたしもワインは好きだから、この間も山本さんと一緒に飲んだばっかりだっていうのに、ついつい飲み過ぎてしまって。


 ぼーっとしていて、気づいた時には手を引かれて歩いていて、ちょっと人気のない住宅街のほうまで来ていて。

 

 あ。やばい。そう思って咄嗟に、『あーーっ!!』って大きい声を出してみた。


 それで、『ごめんなさい、わたし方向音痴だからわかんなくなっちゃったんだけど、ここ、どこですか?』って訊いたら、案の定、アキラ君の自宅周辺だった。


 急に血の気が引いて、酔いの醒めたわたしは、『明日は朝早くから仕事に行かなきゃいけなくて』なんて、休日出勤の嘘までついて、丁寧に丁寧にごめんなさいして、速足で駅の方向に戻ることができたのだった。


 ああ、本当に、アルコール分解能力の高い身体でよかった。


 そして、大きな声を出せる身体でよかった。



 日曜日にはさすがにちょっと元気がなくて、家で引きこもっていた。


 月曜日の今日、会社に来てみれば、またセクハラの吉沢さんに肩に触られて。


 アキラ君との憂鬱な記憶が蘇ってきて、本当に嫌な気持ちになって。



 そんな思いで作業をしていたら。


 ……ああ、またやってしまった。


 わたしはまた、コピー機の使い方を間違えて、印刷ミスをしてしまったのだ。


 それも、大量に。

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