6. ゆるふわと初体験

第42話

 山本さんをお持ち帰りしちゃったあの合コンから、一週間後の週末。

 そんな今日は、合コンで知り合ったK大のアキラくんとのデートの日だった。


 デート、なんて言葉を使ってみたものの、ただご飯を食べに行くこのイベントが、はたしてデートなのかどうなのか、わたしにはよくわからない。


 なにせ、中学も高校もずっと女子校、そして女子大へと進んでしまったわたしには、圧倒的に男性とのデート経験が不足しているのだから。


 もちろん高校時代も大学時代も、男子校だったり、他の大学の男子学生との合コンはあって、それに参加はしていたけれど。


 それで、そのうちの何人かとは、連絡先を交換して、後日ごはんを食べに行ったりしたことはあるけれど。


 だけどその程度のことで、一体相手の何がわかるというのだろうか。


 だいたい三回くらいご飯を食べに行くと、男の子というのはすぐに、暗くて人気のないところに行きたがるのだ。


 そこで何をしたいかなんて、さすがに女子に囲まれた耳年増であるところのわたしには、よくわかってしまう。いや、わかってはいないのかもしれないけれど、よく聞いて知っている。


 それで、男の子のそういうところが、なんとなく嫌だなー、なんて思って、どうにか気を逸らそうとしていると、なんだかいつのまにか男の子たちは怒り出したり、急に元気がなくなっちゃたりして。気づいたら自然消滅、なんてことはよくあった。


 そのどこまでを『付き合った数』に認定していいものかよくわからなかったから、いちいちデートした人数を数えていたこともあったんだけど、じゃあどこからがデートなんだろうって考えるとますますわからなくなるのだ。


 平日の仕事終わりに一緒にご飯を食べに行くとデートなのか、それとも動物園なりテーマパークに出かけて行くところからなのか、はたまた一日の終わりをホテルや相手の自宅で迎えることになったら、なのか。


 そのあたりのことは、もちろん相手によるんだろうけど。だからそもそも今日のデートが、デートなのかデートじゃないのかということも、これから決まるってことなんだろう。


 こういうの、なんだか大学の時に習った哲学とか物理学とか、なんかそういうのであった話に似ている気がする。なんの話かまでは忘れちゃったけど。


 そんなどうでもいいことを考えながら待ち合わせ場所に着くと、アキラ君は既に待っていて、わたしの姿を発見するなり、にこっと笑って手を振ってくれた。


 なるほど、確かに紗香ちゃんが言っていた通りの『イケメン』なのかもしれない。


 このあいだの合コンのときには、薄暗くてよくわからなかったけど、確かに顔を見てみれば、ちょっと雑誌にでも載っていそうな綺麗な顔をしている気がする。


「莉乃ちゃん、オレの顔なんか付いてる? あんまり見られると照れちゃうよー」


 あ、ごめん、つい。


 じっと見てしまっていたら、そんなことを言われてしまった。

 不快な思いをさせてしまっていたら申し訳ないなと思う。


「なんにも付いてないですよー! 綺麗なお顔だなーと思ってただけです」

「わーなにそれ、莉乃ちゃんに言われると嬉しいんだけどー」

「えー、どういう意味ですかー?」


 とりあえずテンションを上げていこう。

 行くお店の方角をスマホで確認して。


「じゃあ、行こうか」


 そう言って、アキラ君はわたしの背中にさりげなく手をまわす。


 ちょっとだけ、嫌な記憶が蘇る。


 だけど、その手を振り解いたりはしない。だって、どうせ一日一緒にいることになるなら、なるべく楽しい気持ちで過ごしていたいし、相手にも楽しんでいてほしいし。


 そう思いながら、デートは始まったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る