第41話

 あの日、円城寺の家のベッドで目覚めてしまったときから、私の中で何かが変わってしまっていたのは事実だ。


 円城寺は仕事ができない。真面目にやっているけれど、相変わらずミスは多いし、まだまだ手がかかるし。


 なのになぜだろう。そんな円城寺の世話をするのが、最近では全然苦にならなくなっていることに、自分でも薄々気づいていた。


 いや、苦にならないどころか、むしろ円城寺がスキルアップしていくことの役に立てることが、嬉しいという気持ちすらある。一緒に仕事をして、作業を分担してやっていくことが、楽しいとすら感じてしまうときもあって。


 それに加えて、こうして一緒にスイーツを食べておしゃべりをして、円城寺のふわふわした髪が揺れて、甘くて可愛い笑い声に包まれている瞬間も。


 ふとしたときに、腕に触れたりしてくる、柔らかい感触を感じるときだって。


 ドキドキだとか、ときめくだとか、そういう言葉ではうまく表せないけれど、心地よく感じてしまっていることは確かなのだ。


 それをなんと呼ぶべきなのか、わからないけれど。そもそも女である私が、女である円城寺に対して、そういう感情を抱くなんてことは、あるんだろうかとか。


 いやもちろん、世の中にはそういう人だっているのは知っているけれど、自分がそうなのかとか、これまでは考えたことはなかったものだから、ただただ混乱してしまう。


 でも、だからって、私は。


「円城寺さんは、どうなんですか」

「え……?」

「誰かを好きになったり、ドキドキしたり、したこと、あるんですか」


 わざわざ、そんなことを、聞いてしまわなくてもいいのに、余計なことを。


「えっと……わたしは」


 円城寺は一瞬、困ったような顔をする。

 だけどすぐに、何かを思いついたようにニコッと笑って言った。


「ドキドキする人、いますよ」

「さっきのデートの男の人?」

「ううん、その人じゃないですけど……」


 そして、さっきのお返しとばかりに言うのだ。


「山本さんには、内緒です」


 なんて、ことを。



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