第39話
私と円城寺、そしてついでの川島さんの残業により、なんとか遅れを取り戻し、私たちは帰路についた。
ちなみに時刻はもう二十二時。円城寺の言葉通りにはならず、川島さんにも十九時から三時間分の残業代を無事に付けてあげることになった。
途中で別の路線を利用している川島さんと別れ、円城寺と二人きりになる。
なんとなく、前の合コンの夜のことが思い出されて、なんだか妙に不安な気持ちになってくるのだけど。
「今日は本当にすみませんでした」
二人きりになった途端、円城寺はあらためて、という感じで、また私に謝罪してきた。そしてついでにまた、とんでもないことを言い出すのだ。
「……それであの、お詫びといってはなんなんですけど、今度スイーツでも食べに行きませんか? 私、おごるので」
……なんて、そんなことを。
「え、そんな、悪いよ」
「いえいえ、ご馳走させてくださいよ。いつもお世話になってるんだし」
私は仕事だから円城寺の面倒を見ているだけで、そんなに感謝される覚えはない。
それにわざわざ会社の業務時間外で、そんなことのために円城寺を拘束するのは申し訳ないと思うのだけど。円城寺にそれを言ったら、
「山本さん、どんだけ真面目なんですかー」
なんて、笑われた。
「わたしが、山本さんと一緒に行きたいんですけど。……ダメですか? 期間限定の瀬戸内レモンのレアチーズケーキとか、食べたくないですか?」
「行きます」
……あ、つい即答してしまった。ああもう、チーズケーキなんて言うから、ついうっかり。
「やったー!!」
円城寺は、子供みたいに手を上げて喜ぶ。大袈裟にリアクションだなと思うけど、最近ではもうあまり気にならなくなっていた。
「じゃあ、約束ですよ?」
そう言って指切りの動作で、右手の小指を寄せてくるものだから、つい反射で私はそれに自分の薬指を絡める。
良い歳してそんな子供みたいなことをしながら、私たちは次のノー残業デーの日に、一緒にスイーツを食べに行く約束をしたのだった。
*
そして迎えた、ノー残業デー。
この日はたまたま、木村さんたちに例のツールのテストをしてもらう日で。無事にみんなに問題がないことを確認してもらって、でもちょっとしたデザインのこととか、何点かの改善案ももらって。
川島さんと円城寺と一緒に、修正スケジュールを組んだところで無事に今日の作業は終了した。
「山本さん、お疲れ様です!」
「お疲れ様。円城寺さんも、今回はずいぶん、がんばりましたよね」
「がんばりましたよー! じゃ、早く行きましょ! チーズケーキ!」
そう言ってまた、私の腕を引っ張っていく。
……川島さんのことは、誘わなくて良いんだろうか。
なんて、ちょっとだけ思ったりもしたけれど。まあいいか、多分女子会みたいなものなのだろう、これも。
そんなふうに、都合のいいような何かで納得させて。
ちょっとだけ寂しそうな川島さんの背中に心の中で謝りつつ、私たちは二人で、約束のスイーツのお店へ向かうのだった。
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