第32話

 合コンは残念ながら、今日も「ハズレ」で、わたしがいいなと思う人はいなかった。

 そもそも今日のわたしの目的は、唐揚げとレモンサワーと山本さんだったし、申し訳ないけど。



 別にタダでお酒や食事をさせてもらおうとか、いつもそういうことばかり考えているわけじゃないけど、わたしは合コンそのものは好きだ。


 なんというか初対面の人と会ってお話しして、みんなでワイワイしたりするのが、わくわくして楽しいのだ。


 会社の人間関係と違って、誰もわたしが仕事ができないことで怒ったりしないし、なんならサラダを取り分けただけで褒めてもらえるから、気が楽で。


 だからいろんな友達に誘われるままに合コンに参加していたら、気づいたら週一ペースくらいで参加していて、すごく出会いを求めている人みたいになっているけど、残念ながらわたしに彼氏ができることはなかった。


「莉乃ちゃん、ほんと可愛いね」

「普段休みの日とか、何してるの?」

「芸能人だとどういう人がタイプ?」


 そうやって、合コンではいつもいろんな人が話しかけてくれて、質問をしてくれて、わたしはそれに答えていく形で、会話が生まれる。可愛いって言ってくれる人がいるのは素直に嬉しいし、実際、毎日可愛くなれるように頑張っているのだから、むしろ言ってくれないと困るくらいだ。


 だけど、どうしてなんだろう。ちょっとだけ、こういう生活をむなしいと感じなくもない。


 学生時代の友達のうちの何人かは、最近では結婚してしまったり、子供まで生まれた人もいて、合コンに誘ってくれる人はだんだん減ってきていて。


 だからきっと、わたしの中には、少し焦りのようなものもあるのだと思う。早く彼氏を作って、結婚して子供を産んで、そんな未来も幸せなのかな、なんてことも考えたりするけれど。


 だけど、そういう人生がいまいちピンとこないのも事実で。


 だからって、現実逃避みたいに合コンに参加したり、そこで知り合った男の人とデートしたりもしていても、平日の朝に会社に行って仕事をすれば、役立たずでまわりに迷惑をかけてばかりの自分と向き合うことになる。


 どうしたらいいかわからなくて、どうやったら自分を変えられるのかもわからないまま毎日過ごして、苦しくて。


 そんな毎日だったけど、でも、あれ。最近は会社に行くのが辛くなくて、むしろ楽しいくらいで。


 いったいどうしてなんだろうって思ったけど、その理由は明らかだった。


 ……山本さん。


 いつも人と群れずに一人で過ごしていて、仕事もできて。

 わたしとはまったく違っていて。


 今まで仲良くしてきた友達にはいないタイプの女の人だからってのもあるのかもしれない。

 だけど、こんなに誰かのことを気になるなんて初めてだったから、ちょっとだけ戸惑ってしまう。


 同い年で、仕事の先輩で、すごく仕事ができてかっこいいのに、可愛い一面もあって。


 でも、わたしは山本さんのことをまだ何も知らなくて。


 だから、知りたい。


 もっと話して、山本さんのことを知って、仲良くなってみたい。きっとそれが、今わたしの一番やりたいことだから。


 だからわたしは、勇気を出して言ってみたのだ。

 みんなと解散した後、山本さんの手を引っ張って。目をまっすぐ見つめて。


『よかったら、二人で二次会行きません?』って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る