第31話
そして、待ちに待った合コン当日がやってきた。
わたしはもう、朝からそわそわしていたのだけど、山本さんたら、いつものように残業なんかしようとしている。
「山本さん。今日、ノー残業デーですよ」
山本さんの肩をツンツン突っついて教えてあげる。
「え、忘れてた」
「もしかして、今日合コンってことも忘れてます?」
案の定、ノー残業デーはもちろん、合コンのことなんか1ミリも覚えてくれていないようだった。
「……私、こんな服で来ちゃったけど」
山本さんは困ったようにそんなことを言う。確かにいつもと同じスーツ姿だけど。
「山本さん、スーツ姿かっこいいから大丈夫ですよ!! たまには気分転換も必要ですから、行きましょう!!」
わたしはそう言って、山本さんの手を握る。こうやって捕まえてしまわないと、逃げちゃいそうだったから。
「ああ、もう、わかったから!」
山本さんはやっとパソコンの電源を落として、帰る準備をしてくれた。
よし、アフター5。ここからはわたしの時間!
楽しい楽しい合コンタイムが始まるのだ。
オフィスを出て、いざ夜の街へ。ちょっと怪しい言い方な気もするけど、夜なんだから夜の街でいいと思う。
逃げられないように念には念を入れて、わたしは歩きながらさりげなく、山本さんと腕を組む。
思えば、山本さんとこんなふうに夜の道を歩くことなんて初めてだった。
山本さんはいつも一人で残業しているから、一緒に帰ったことはないし。
だからなんだか新鮮な感覚で。ついついテンションが上がってしまう。
とりあえず、対戦相手の情報をと思って、紗香ちゃんから聞いた男性陣のプロフィールなんかを簡単に紹介したりもしていたけれど、山本さんはいまいち興味がなさそうで、本当に男の人と出会う気はあるのだろうか、と思う。
まあもちろん、わたしが強引に誘ってしまったから、きっと本当は合コンになんか、全然興味がないのかもしれない。だとしたら申し訳ないなーと思う気持ちと、このあと山本さんと一緒にお酒が飲めるというワクワクした気持ちとで、わたしはなんだかよくわからないテンションになっていった。
一応、紗香ちゃんの話では、いろんなタイプの男の人たちを連れてくるとのことだったから、山本さんが気にいる人もいるといいな、と思う。
しかし、山本さんは一体、どんな男の人に興味があるんだろう。なんだかそっちのほうが気になってしまう。
そんなこと考えてる場合じゃなくて、一応そろそろ自分の心配もすべきだってことはわかっているわけだけど。
でもちょっと今日は仕方ないかな、なんて思ってしまう。
わたしの今日のメインターゲットは、美味しいらしいレモンサワーと唐揚げと、それから、山本さん、なんだもん。
……ん、ターゲット、ってことは、そうか。
わたしは唐突に名案を思いついてしまう。
そうだ、わたしが山本さんを、お持ち帰りしちゃえばいいんだ、って。
ほら、合コンがハズレだった時に、女子メンバーで反省会とかするみたいな、そういうノリで。
そしたらきっと、いっぱいお話できるし。終電近くなってもわたしの家はここからわりと近いし、そしたらお泊まり女子会にしちゃえばいい。
山本さんがそこまで付き合ってくれるかどうかは、謎だけど。
そんなことを考えながら、山本さんとおしゃべりしながら歩くうちに、いつのまにかお店に着いていた。
さて、ここからは戦闘モードで行こう。
何人たりとも、山本さんをお持ち帰りさせるわけにはいかないんだから!
わたしはやる気に燃えるのだった。
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