第30話

 それきり翌日からは、わたしはまたいつものランチのメンバーと昼食を摂る日々に戻った。


 山本さんと一緒にお昼を食べたいな、と思う日もあったけど、他のみんなとワイワイする時間も大事だと思っているし。それに仕事中も隣の席にいるのに、お昼まで誘ったら迷惑かなって思ってしまうし。


 そんなあるとき、総務課の紗香ちゃんから、合コンに誘われた。なんでも、大学時代の友達の男の子を連れてくるらしい。


「K大の子の友達だからさ! きっとハイスペ揃いだよ!」


 そう言って、紗香ちゃんは目をキラキラさせている。

 いつでも彼氏募集中の紗香ちゃんは、こうしてたまに合コンに誘ってくれるのだ。


 ハイスペとかそういうの、正直そんなによくわからないんだけど、紗香ちゃんのお友達のお友達っていうなら、きっといい人たちなんだろう。そんなことを思う。


「女の子はいつも通りタダ飯タダ飲みでいいってさ」


 それを聞いて、つい食いついてしまう。


 お金持ちの男友達が多いのかわからないけど、なぜかいつも男性陣がほとんど奢りにしてくれることが多いから、万年金欠のわたしとしては、とっても助かる。もう、毎日でも合コンに行きたいくらいだった。


 今回の会場は、何かの賞をとったような特製唐揚げが有名なお店とのことだったので、もう当日はお昼を抜いて楽しんじゃおうかな、なんて今から思ってしまう。


 そんなことを考えていたところで、山本さんのお弁当のことを思い出した。山本さんもこの間お弁当に唐揚げを入れていたから、もしかしたら唐揚げ好きかな、とか。


 一緒に食べれたら楽しいだろうな、なんて思ってしまって。


 でも、そこまで考えて、気づいた。そもそも、山本さんて、彼氏とかいるのかな、と。


 普段ずっと残業をしているから、なんとなくいないような気がするけど、でも、本当のところはわからないし。


 さすがにいきなり誘ったら迷惑かな、とも思っていたのだけど。


 そのチャンスは意外と早く、めぐってきた。




 ある日の朝、山本さんは唐突に呟いたのだった。


「円城寺さん、彼氏いないんだ」

「……えっ」


 わたしがさっき、課長に『彼氏とデート?』なんてセクハラっぽい話をされていたのを聞いていたのだろう。 

 びっくりしていると、山本さんもしまった、というような顔をした。


「いや、すみません。なんか意外だと思っただけです」

「そうですかー? あれ、山本さんはどうなんですか?」

「えっ……」


 ここぞとばかりに、聞いてみた。


「い、いるわけないですっ。そんなっ」


 山本さんはなんだか動揺していて。照れたように、そう答える。


 よし、これは大チャンス。


「そっかー。じゃあわたしと一緒ですねっ。今度一緒に合コン行きましょーよ!」

「え、いや、私は……」


 戸惑っている山本さんに畳み掛ける。


「紗香ちゃんがメンバー探してたんで、伝えておきますねっ」

「は、はい……」


 よし。ちょっと強引だったけど、ちょっとじゃなくてだいぶ強引だったけど、とりあえずOKの返事をもらったことは確かだ。


 それに。


 ……照れてる山本さん、とっても可愛い。


 普段こんなに真面目な山本さんは、男の人の前だったら、一体どんな感じになってしまうんだろう。

 ついつい、気になってしまう。


 わたしは合コンの本来の目的も忘れて、その日を心待ちにするのだった。


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