第28話

「これは……夜ご飯なんです」


 山本さんは恥ずかしそうにそんなことを言う。


「えっ……!? これが? これだけですか?」

「私、残業すること多いから、お腹減るんだけど、わざわざ買いに行くほどじゃないし。家に帰るのは遅くなるから……」

「だからってそんな……身体に悪過ぎですよ? せめておにぎりとか食べましょうよ! お昼にコンビニで買っとけばいいじゃないですかー」


 わたしはなんだか無駄にそんなことを主張してしまう。そういえば山本さんはお昼にはいつも一人でどこかへ行ってしまうけど、お昼ご飯もまともに食べているかどうか怪しい。


 だからこんなに細いのか……と思って、ついつい心配になってしまう。


「あの、お昼はいつもどうしてるんですか? ちゃんと食べてます?」


 この際だから、突っ込んで聞いてみる。


「お昼はあれです。会議室に自販機あるから、そこのカップラーメン……」

「え、そんな、それじゃいつか倒れちゃいますよ!!」

「……ああ、前職でも倒れたね、確かに……」


 山本さんはそんなことをブツブツ呟いている。しかし今の話を聞くと、相当ひどい食生活をしているみたいだけど、なんでそれでこんなに綺麗なお肌なのか。


 つくづく人間は不平等だ。神様を恨んでしまいそうになる。


 だけど、そんなことはともかく、これじゃいつか病気になってしまうだろう。

 心配でたまらなくなって、わたしはついつい言ってしまう。


「せめてお昼はちゃんと食べましょ? あ、そうだ! 今度一緒にランチ行きましょうよ! 総務課の紗香ちゃんとか、美味しい店いろいろ知ってるし、みんなで話すと楽しいですよ~」


 お節介かなと思いつつ、そう誘ってみるのだけど。


「うーん、私はいいや。あんまり人と食べるの、得意じゃないから……」


 そう、むげに断られてしまった。


 そのあとも、わたしは山本さんの食生活を気にしていたのだけど、それからしばらくして、山本さんは会社にお弁当を持参するようになった。


 ちょうどその日は、いつも一緒にランチに行くメンバーが忙しそうだったから、わたしはデスクでコンビニのおにぎりを食べることにしたら、山本さんも珍しく、自分の席でお弁当を広げていた。


 ちらりと覗いてみると、多分冷凍食品とかでもなく、ちゃんと手作りした感じのおかずが入っていて、彩りも良くてとても美味しそうで。


 いいなぁ。ひと口ほしいなあ、なんて、欲深いことを思ってしまった。まったくわたしは……学生じゃないんだから、もう。


「山本さん、ついに栄養を気にするようになったんですね!」


 そう話しかけてみると、山本さんは言う。


「いえ、別にそう言うわけじゃ……。これはただの節約です」


 絶対、カップラーメンよりは食費かかっていると思うけど、素直じゃないんだから。

 つい、笑ってしまう。


「卵焼き、甘い派ですか? それとも、しょっぱい派?」


 綺麗な黄色の卵焼きを見て、ついついそんなことを聞いてしまうと、山本さんは答えてくれた。


「日替わり派です」

「なるほど。……今日のは、どっちですか」

「しょっぱい……かな。チーズ入りなんで」

「山本さん、本当にチーズ大好きなんですね!」


 わたしがそう言うと、山本さんはまた照れた様子で、パソコンのほうを向いてしまう。

 可愛いんだから、ほんと。


 健康的なお弁当になって、よかったなぁ、と思いつつも。

 いつか、一緒にごはんに行けたらいいのにな、なんて。わたしは、そんなことを思ってしまったのだった。

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