第24話
話がまとまったあとは早速、円城寺も呼び出して、内容を告げる。
今度から私の専属アシスタントになるという話をすると、円城寺は文字通り、漫画のキャラみたいに目を丸くしていた。
さっきはああ言っていたけど、やはり、私の専属になるのは嫌だろうか……。
もう決まったことではあるのだけど、ちょっとだけ不安になる。
「結構しんどいと思うけど、ほんとに……大丈夫?」
一応もう一度、確認する。すると円城寺は次の瞬間、ぱっと表情を変えて言う。
「山本さんが教えてくれるなら、がんばります!」
また子犬みたいな、きらきらした目で、そんなことを。
……まったく、返事だけは頼もしいんだから。
だいたい『山本さんが』じゃないだろ。誰のとこの仕事でもがんばれよ。
そう思いながらも、悪い気はしなかった。
自席に戻ってから早速、単刀直入に話した。
「円城寺さんには、これからVBAを覚えてもらおうと思います」
「え……それって、プログラミングってことですか?」
「そんなようなものだね。でも大丈夫、プログラミングのなかでも、比較的とっつきやすいと思うよ。ほら、今の仕事でも使ってるExcelと関係するものだし」
「そうなんですか」
まだよくわかっていないという様子だけど、そういうものだろう。私は話を続ける。
ひととおり概要を説明した段階で、円城寺は言う。
「もしかして、このあいだの、私の仕事がなくなっちゃうかもしれないこと、気にかけてくれたんですか?」
さっきよりもさらにきらきらした目で。
……もう、自己肯定感高すぎなんだよ、この女は。
「別にそういうわけでもないけど……円城寺さんも、いつまでも同じ仕事だけしてるわけにはいかないでしょ」
照れ隠しに思わずそう言ってしまったけれど、嘘だ。
だけど、別にそれだけが理由じゃない。
円城寺の行く末を案じたというのは本当だけど、専属のアシスタントにしようと思ったのは、周りの他の社員よりも、円城寺が一番適任だとシンプルに思ったからなのだ。
円城寺は私の指示にはなぜかきちんと従ってくれるし、間違えたときも隠さないでちゃんと教えてくれる。それから、ちゃんと順を追って説明すれば理解する頭も持っているし、新しい知識を身につけるための努力だってしてくれる。
何より、素直だし。……それから、可愛いし。
って、いや、これは違う。なんでもない。
別にえこひいきとかではない。職権濫用でもない。
……多分。
「山本さん、ありがとうございます……。でも、私なんかに、本当にできるのかな……」
不安そうにそう言う円城寺に、私はきっぱりと告げる。
「できるのかな、じゃなくて。やってください」
「……はい」
私の専属アシスタントになったからには、もう容赦はしないぞ。
そんなちょっといじわるなことを思いながらも。どうしてなんだろう。
なんだか胸の辺りがポカポカしてくる。
「ちょっと換気しましょうか」
話がひと段落して、円城寺が窓を開ける。ぬるい風がオフィスに入り込んで。どこからか、花のような香りがした。どこかで嗅いだことのあるような香りが。
「なんか春って感じですねー」
円城寺がこちらを見てにっこり笑う。風でふわふわの髪が揺れる。
きっと、春の空気に当てられたせいだ。そう思う。
それはあと数日でもうすぐ四月になる、そんな暖かい日のことだった。
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