3. ゆるふわとスキルアップ

第19話

 あの日、酔い潰れて円城寺の家に泊まってしまった事件以来、なんとなく円城寺の顔を見るのが恥ずかしい。

 

 あんなふうに、人様に醜態を晒すのは初めてだったから、どうしたらいいのかわからなくて。一緒に仕事をしている以上、あからさまに避けるわけもいかないから、普通の顔をしているつもりだけれど、なんとなくあのときの円城寺の姿が頭の中ににちらつくような感じがする。


 それは私にとってはとても不快なことだった。落ち着かない。

 なんだか弱みを握られたみたいで、大層居心地が悪かった。


 

 それはそうとして、今日も私は、新ツールの開発のための準備作業をしている。

 午前中は木村さんや黒川さんとミーティングをして、現行のツールの問題点と言う名の愚痴大会に費やされた。

 

 お昼休憩でなんとか元気を回復させたものの、やっぱり頭の中はすっきりしない。

 珍しく何もない午後だから、作業に集中できるはずなのに、こういうときに限って余計なことばかり考えてしまうのだ。


 ……相変わらず、隣の席からはいい匂いがするし。


 だからもう、私は何を考えてるんだ。


 とりあえず、珈琲を飲んで頭を切り替えようと、給湯室に向かった。


 中に入ると、狭いスペースの中に総務課の女子が三人いて、おしゃべりをしていた。珈琲の使い捨てカップがいくつも捨ててあるところを見ると、どうやら大人数の会議かなんかがあった後で、カップを下げたついでに、ついついおしゃべりをしてしまっているのだろう。


 うちの会社は、今どき珍しく、来客やら会議やらのたびに女子にお茶くみをさせることが多くて、基本的には総務課の女子が交代で行っている。


 来客が多いときなんかは経理課のメンバーも手伝うこともあるし、円城寺なんかはしょっちゅう呼び出されているけれど、私が手伝うことはほぼない。


 そのあたりはなんとなく雰囲気なのか、私がいつも忙しそうにしているせいなのか、頼まれることがないのだ。


 個人的には、来客時はともかく、今どき社内の会議のためにわざわざ、人数分の飲み物を女子社員に準備させるなんて、ずいぶんと余裕があるな、なんて思ってしまうけど。


 課長なんかは何もなくても、普段から、円城寺に朝と午後に珈琲を淹れてもらっている。それが当たり前だと思っているのだろう。


 自分のぶんの珈琲くらい、自分で準備したらいいと、私は思うのだけど。

 

「お疲れ様です」


 おしゃべりしている女子三人に軽く挨拶しつつ、自分のマグに入れる用の珈琲を準備する。ちなみにこれは来客用のものとは別で、課のみんなでお金を出し合って買っている安い珈琲だ。買い出し担当は例によって円城寺で、近所のスーパーで値引きが行われているタイミングでいつも買ってきてくれている。


「円城寺のやつさ、今日はデートらしいよ」

「聞いた聞いた、この間の合コンで知り合った人でしょ」

「ほんと、節操ないよね」

「仕事できないくせにね」


 おしゃべり三人組は、もうとっくに用なんかないくせに、円城寺の噂話をしている。

 普段は一緒にランチなんか行ってるくせに、こうして陰で悪口言っているのか。

 自分の話でなくても、さすがに嫌な気持ちになる。


 あと、仕事できないのと節操がないのとは、また別の話だと思う。まあ、それは置いておこう。


 

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