第18話
頭が痛い。二日酔いの頭のまま、ほとんど無意識に電車に乗って家に向かった。
途中、電車を乗り継ぐ時に、段差につまずきそうになったりしながらも、なんとかたどり着く。
私の自宅は、最寄り駅から徒歩五分のオートロック付きマンションの六階だ。引きこもり体質の自分は、住む場所にはお金をかける主義で、一人暮らしだというのに2LDKなんかに住んでいる。
もちろんお風呂もキッチンも広い。引きこもり万歳。
シャワーを浴びて部屋着に着替えてから、ベッドへダイブする。このベッドも何軒もお店を回って実際に寝心地を試して買ったこだわりのものだし、枕はもちろんオーダーメイドだ。
残念ながら前職では、この自宅に帰れることも少なかったから、意味をなさなかったわけだけど、今ならこの部屋を存分に楽しむことができるのだ。
掛け布団のふわふわした柔らかい感触。替えたばかりのシーツからは、柔軟剤の石鹸の香りがする。
この慣れたベッドが私の居場所だ。誰にも邪魔をされない自由な空間。
この空間に、自分の部屋に一人でいる時間こそが、私にとっては至福の時なのだ。この生活の中に、他人が入る余地なんてない。
円城寺みたいに、必死で恋人探しをする人の気持ちなんて、1ミリも理解できない。
アフター6の時間を人と一緒に過ごすだけで気疲れしてしまうような私なのだ。
仕事以外の休みの時間にまで、定期的に他人と会う関係性に、なんの憧れも持てなくて。
ましてや、同じ布団で眠るような関係なんて、考えられない。
他人とそういうことをする関係、なんて……。
ベッドに横たわって、そんなことを思いながら、ふと横を向く。お気に入りの抱き枕が隣にある。
それはちょうど、さっきまで、円城寺がいた距離だ。そんなことが頭をよぎる。
なぜだか、さっきの円城寺の姿が目に浮かぶ。円城寺も服を着ていなかったのは、いったいなぜなんだろう。
……いやいやいやいや。あり得ないから、そんなこと。
なんだか変な動悸がする。
少し何かを考えようとしただけで、心臓が苦しくなる。顔が熱くなる。
だいたい、なんなんだ、さっきの円城寺は。
ひとの胸なんか、じろじろ見て。信じられない。……破廉恥だ。
思い出しただけで、もう、頭の中にぐるぐるした何かが生まれる気がする。
もやもやしたので、布団をかぶる。いつもなら、この柔らかくてふかふかな抱き枕を抱くのに、今日はそうしなかった。いや、できなかった。
余計なことを考えてしまいそうで、怖かったのだ。
思考を脇へ脇へ追いやりながら、再び目を瞑る。
モヤモヤする心を必死でなだめる。
もう、何も考えたくない。
そうしてそのまま私は、深い深い眠りの底に落ちていったのだった。
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