第17話

 朝起きると、知らない天井があった。

 アニメとか漫画の世界じゃなくて、本当に。


「え、嘘……」


 頭が痛い。


 私は必死で、昨日の記憶を呼び覚まそうとする。


 確か円城寺に連れられて無理やり合コンに連れて行かれて。その後は二人きりで二次会をして、そのせいでチーズとワインのまりあーじゅ、に脳を溶かされて……。


 ああ、そうか、飲み過ぎたんだ。


 ということは、ここは……。


 今更気がついて横を見てみれば、すぐ隣にはひとがいて、すーすーと寝息を立てている。その度に髪の毛が肌に触れて、くすぐったい。


 ふわりと香る、石鹸みたいな香り。どこかで嗅いだことのあるその香りが、一瞬で私を目覚めさせる。


 思わず、布団を蹴るようにして、ガバッと飛び起きた。


 隣にいたのは、やはり円城寺だった。


 しかし、なんだか妙にスースーして心もとない。そして今更になって気づいた。私は服を着ていない。ブラジャーも。

 

 かろうじてショーツだけは履いていたけれど。


「え、ちょ、ちょっと待って……」


 混乱して騒いでいると、円城寺が目を覚ました。ぐーっと伸びをして、こちらを見てにっこり笑う。


「あ、山本さん。おはようございます」

「え、ちょっちょっと。私、どうしてここに?」


 何も身につけていない胸元を必死で隠す。見れば円城寺も何も身につけていない。白い肌に、山本のものとは比べ物にならないくらいの大きな膨らみがあって。ピンク色の乳首が可愛らしく主張している。


「あれ、覚えてないんですか? 昨日、合コンのあと、二人で飲んでたら、山本さんつぶれちゃって。心配だったから、私が連れて帰ってきたんですよ」


 円城寺は自分の身体を隠す様子もなく、そんなことを言う。


「そ、それで……どうして私は服を着てないの……?」

「うふふ。昨日はすごかったですよ♪」

「ちょっと待って……」


 思わず頭を抱える。正直、わけのわからなさで、もう泣きそうだった。


「冗談ですってば」

「え……」


 混乱している私に、円城寺はいたずらっ子のように笑って言う。


「スーツがしわになっちゃうといけないから。勝手に脱がせちゃったんです。ごめんなさい」


 ……なんだ。そんなことか。ああ、よかった。本当に。


 つい、ふーっとため息をつく。本当にもう、心臓に悪い。


 ……だけど。


 私は今、一体何を想像してしまったんだろう。まさか円城寺と、そんな。よからぬことを……?


 いやいやいや、何を考えているんだ。私に限って、そんなことあるはずないのに。それに、あの男好きと噂の円城寺が、私とそんなことするはずないだろう。


 私は何を考えてるんだ、もう。いくらなんでも、破廉恥すぎるだろ。


 必死で、頭の中から余計な思考を追い払おうとしていると、円城寺は言う。


「山本さんのおっぱいって、きれいな形ですよねー。いいなぁ」


 そんなセクハラ発言をされる。慌てて後ろを向いた。ちょ、ちょっと何これ、恥ずかしくて仕方ないんですけど。


 女同士だから許されるなんてことはない。コンプラ違反だ。もう、あとで人事に訴えてやる。二日酔いのボーッとした頭でそんなことを考えながら、私はベッドを出る。


「も、もう帰ります!」


 慌てながらも服を探す。私の下着は、綺麗に畳まれてベッドサイドのテーブルの上に置かれていて、スーツは壁にかけられていた。


 私は急いで服を着て、円城寺の家をあとにしたのだった。


 

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