第6話
円城寺の作業しているスペースに向かうと、あまりの作業量に珍しく涙目になっている彼女がいた。
「円城寺さん、大丈夫?」
「山本さん、もしかして助けに来てくれたんですか?」
「まあ、木村さんに言われて来たんだけど、何やればいいかな」
私がそう言うと円城寺は、書類の山を指さして言う。
「これ、なんですけど……間違って去年の書類と今年の書類混ぜちゃって」
「は、はあ!?」
「木村さんにバレる前になんとか片付けちゃわないと、怒られちゃう……」
そう言ってまた泣きそうになっている。
「ああ、わかったから。とりあえず、まず今年のと去年のを別々の山に分けよう。その後でこっちから順にファイリングして……」
なぜ私が整理しているのか全くわからないのだけど。
ひとまず、二人で作業を進める。しかし、こんな書類の仕分けなんて、ただの単純作業だと思っていたけど、やってみると、担当者の書いた日付が読みづらかったり、紙自体が曲がっていて重ねづらくなっていたり、元々まとめられていたファイルのタイトルと中身が違っていたりと、なかなか気をつけないといけないことが多い。
なんとか山に分け終わったら、今度はその書類をファイルに綴じて、わかりやすいようにインデックスシールを貼っていく。
私はこういう手先を使う細かい仕事は苦手で、シールがちょっと曲がってしまったりしてしまう。
「意外と大変だね、この仕事」
つい、ため息交じりに、そんな言葉をもらしてしまった。
「え、そうですか?」
そう言う円城寺の手元を見ると、ピシッとまっすぐにインデックスシールが貼られている。もちろん、シールにはあの美しい文字が整然と並んでいる。
円城寺は私の持っているファイルに目をやると、ふふっと笑う。
「山本さんにも、苦手なことってあるんですね」
「……細かい作業、苦手なんだよ。よくそんなに綺麗にできるね」
手伝いに来たはずが、これではあまり役に立っていないような気もする。
「山本さんのお仕事の方がよほど難しそうですけど」
「そうでもないけど……まあ、パソコンが苦手な人にはしんどいかもね」
「わたし全然そういうのできないから……尊敬しちゃいます」
円城寺にフォローされてしまったけど、まあ悪い気はしない。
しばらく作業をしていると、離れた島のほうから呼ばれる。黒川さんだ。
「山本さん、ごめん。ちょっと助けてもらえるー? またエラー出ちゃった!」
「はーい、今、行きます!」
とりあえず返事をしてから、円城寺に声をかける。
「ごめん、呼ばれたから行くね。ひとりで大丈夫?」
「もう大丈夫そうです。ありがとうございます」
円城寺がそう言うので、私は作業をやめて黒川さんのところへ向かった。最近、黒川さんの業務で使っているツールの調子が悪くて、しょっちゅうエラーが出てしまっている。
多分、前任者の書いたコードが良くないんだろうなと思う。もしかしたらツール自体作り直したほうがいいかもしれないと思うけど、それをやるとしたら、結局担当は自分だから、なんとなく気が重かった。
ツールを起動し直したら、なんとか復活したので、とりあえず黒川さんに返して、私は自席でエラーの原因を探した。
ふと円城寺の様子をみる。ファイリング作業はひと段落したみたいだったけど、今度は一度に大人数の来客があったとかで、総務課に呼ばれてコーヒーを作りに行っていた。慌ただしく動いていて大変そうだけれど、なんとなくExcel仕事のときよりは、生き生きとして見える。
でも、それを横目で眺めているのは、私だけではないみたいだった。
「もうずっと、お茶くみだけしてたらいいのに」
木村さんがそんな言葉を吐くのを黙って聞きながら、私は自分の作業を進めていた。
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