第4話
そろそろお腹が空いたなと思っていると、お昼休みを告げるチャイムが鳴った。間髪入れずに、円城寺は席を立つ。隣の総務課の若い女の子達と一緒に、外へ出て行った。
みんなで外の可愛らしいお店でランチでもするのだろう。私は一緒に行ったことがないからよく知らないけど。
入社したての頃は、気を遣われてよくランチに誘われたものだが、昼休みに仕事をするふりをして断っていたら、次第に誘われなくなった。ちょっと寂しいような気もするけれど、他人と一緒に食事をするのは苦手だから、むしろありがたい。
少し経って、木村さんと渡辺さんが連れ立って出て行った。今日は黒川さんと川島さんが遅番のようで、二人はまだデスクで作業をしている。
キリのいいところまで作業が終わったので、私も席を立った。
廊下に出て、階段で一つ下のフロアに降りる。自販機の横を素通りして、会議室のドアを開ける。ここが、私がいつも昼食を食べる場所だ。
ここの会議室は、普段からあまり使われておらず、基本的に社員の休憩スペースになっている。使われるのは年に二回ほどある社内イベントなんかのときくらいで、それ以外のときには適当に配置された机を、それぞれが個別に利用しているのだ。
中にいるのは中年の男性社員ばかりで、大体皆、その辺のコンビニや弁当屋でお昼を買ってきている。
「お疲れ様です」
入り口近くにいた他の課の社員に一応声をかけてから、奥の隅っこの席に座って持参したお弁当を広げる。ここがなんとなく、私の定位置になっていた。
誰にも邪魔されることなく、一人で黙々と昼食を食べる。うちの会社の女子達は外食組が多いから、ここにはあまり来ない。そして、ここの男性社員は私に変に干渉したりしないから、すごく気が楽だった。
お弁当を食べ終わった後は、しばらくぼーっとする。メガネを外して机に突っ伏した。暗くなった世界の中で軽く目を休ませる。眠れるわけではないけれど、こうすると疲れ目も少し楽になる。
ぼーっとしているとスマホのアラームが鳴った。昼休みの終了五分前。一人だけの暗い世界を名残惜しく思いながら、自分の席へと戻った。
端末のロックを解除してメールをチェックし、午後の業務を始めていると、まもなくチャイムが鳴った。先輩方が既に席に着いて作業開始しているところへ、バタバタと慌ただしく走って、円城寺が席に戻ってくる。
「ギリギリ、セーフ!」
そう言って、こっちを見てにこっと笑う。中学生かよ。
だけど、持って生まれた可愛らしい顔面のせいで、なんとなく許せてしまうような気がする。本当に、ずるい女だと思う。
午後の円城寺の仕事は、午前中に届いた帳票類のファイリングと、先月分の大量のファイルの整理だった。
「円城寺さん、いくらなんでもミス多過ぎじゃないの? ちゃんと集中して」
「すみません」
本当は午後イチで頼まれていたパソコン仕事があったようなのだが、Excelのミスが多すぎてついにその仕事を取り上げられていたのだった。
そんな事情にもめげず、ニコニコ笑顔でファイルの背表紙にマーカーでタイトルを手書きしている。チャラチャラとした外見とは裏腹に、きれいに整った真面目そうな字が目を惹く。
「よし、できた」
書き終えたのか、小さくそう呟く、空気の混じった高い声になぜだか耳を持って行かれる。
なんとなく落ち着かない気持ちを奥へ押しやって、私は自分の作業を続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます