第8章(最終章)キュアノエイデスの正体
第114話 「見える」子どもたち
「森を焼いた件で多くの犠牲を出してしまったこと、並びに友一から報告を受けた森を守ろうとし柚井少年の救助まで手を貸してくれたというメラニズムのトカゲについては本当に申し訳ないことをしたと悔いている。まずは炎の中死に絶えたものたちに黙祷を捧げる」
鏑木さんの言葉に、ミーティングルームに集まっていた隊員総員がしばしの間目を瞑り、それぞれ黙祷を捧げた。
「ではまず定例報告から。秋弘」
「はい。本日のキュアノエイデスの説明会担当者は小学校が空と俺、中学校が山内さんと手塚さん。高校が友一さんと隊長となっております」
なんだかんだ言って、説明会をしに行くのは初めてだ。任務として調査隊であるかSTであるか関係なく学生にキュアノエイデスについて学んでもらうという取り組みがあることは知っていたが、僕は今まで哨戒任務が多くこの任務についたことがなかった。
小学生相手となると多少骨が折れそうだ。資料をわかりやすく作るのはもちろんだけど、低学年だと話を聞いてもらうのにも一苦労しそうだ。
「哨戒は第1地区から第4地区を残りの方で時間制で交代し通常通り行ってください」
「では私は第3地区の哨戒を担当してもよろしいでしょうか。まだ火の移ってしまったお宅の掃除を手伝いたいので」
「いや、実は舞子には別の任務がある」
何やらスクリーンに何枚かの写真が映し出される。どれも第4地区のごくごく普通な見た目の五階建てほどのマンション付近のものだ。
「これは夏鈴の管轄している防犯カメラの写真と、周辺住民から送られてきたものとある。夏鈴、説明してくれ」
雄に指示され、夏鈴は席を立った。
「これはどれも別の方から通報のあった現場の写真よ」
「何も映ってないように見えるけど、なんかSTのみんなには見えてるの?」
花崎さんが挙手しながら質問すると、八十八さんも困ったように答えた。
「それが調べてみたけど生体と思われるものは映っていないの。だけど通報者はみんな「見えた」って言ってるわ」
「具体的に、その人たちは何が見えたと言っているんだ?」
愛斗の質問には誠一郎が答えた。
「黒い影のような、霧のようなものが纏わりついてきて「君のいらないもの全部僕がもらってあげる」と言って見えなくなるそうだ」
「こっわ、心霊現象じゃん」
眉間に皴を寄せて怪訝そうな顔をする誠一郎さんは黙り込んだ。確かに心霊現象である可能性は否定できないが、その他の可能性も考えられる。それについては翼が言及した。
「いはるの言い方はともかく、通報者たちが偶然幻覚症状の出るアゲハの鱗粉を吸い込んでしまったというのは考えられませんか?」
「いや、それはないだろう。全員に念のため検査を受けてもらったが幻覚症状の出る鱗粉は検出されなかったそうだ。でも共通していることとして妙なことは、通報者がみな子どもだということだな」
雄の見解を聞いて、翼は子どもの嘘や作り話ではないかと疑ったが、子どもと言っても幼児から十代後半まで年齢は様々で、友人グループなどで画策された悪戯とは考えにくかった。
「翼の言うように、幻覚症状という可能性は俺も高いと思っている。アゲハ蝶でなくても何か子どもにだけ幻覚症状が現れる新種の生き物の仕業ではないかと。病院で検査出来るのは、既に発見されている幻覚症状発症原因の特定だけだからな」
まだ発見されていない幻覚症状を引き起こす源があるかもしれない、ということらしい。
「それを確かめるために、舞子、涙、七星、翔馬の三人にはこのマンション周辺やマンション内の様子を見に行ってほしい」
「安全のために立ち入り禁止にすりゃいいんだろ?」
「ああ、頼む。今は特に害などが出たという報告はないが、幻覚症状以外にも今後何か発症してしまう可能性がなくもない。被害を出さないために早急に調査しなくてはな」
翔馬さんは早速マンションのある場所について梁瀬さんに確認している。鏑木さんの考えに誰もが同意していた。
「何か手がかりが見つかるかもしれないし、銅さんが封鎖してくれている間に俺たちは先にマンション内を哨戒しよう」
「僕は七星の言う通りにするよ」
「では私はマンション周辺を」
庵野さんと英さん、舞子が打ち合わせをしていると、采振木さんが響ノ束さんに肘でつつかれて面倒臭そうに発言した。
「雄に前もって話を聞かされてたから、子どものいる全ての家庭にガスマスクを郵送しておいた。もし鱗粉みてえなもんが原因だったらそれで一時は幻覚症状を防げるはずだ」
そこでふと、僕はこれまでのことを振り返ってみて奇妙なことに気がついた。
「最近、定期的と言っていいほど大きな出来事が連発して起こっていますよね」
呟くと、勇さんも同意するように頷いた。
「不気味っていうか、気持ちわりぃよな。パッションフラワー以外の奴らはみんな自我を失ったみてえに暴れて、パッションフラワーを踏みつけてた岩も自然に置かれたものじゃなさそうだった。これまで起こった出来事は、根本的なところで何か繋がってるようにさえ思える」
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