第113話 当たり前は、わざわざ話されない
ここで空は涙にあのメラニズムのトカゲが柚井君を運んでくれたことや、これ以上森に被害を出さないために自ら賛成派の隊員の…火炎放射の前に立ちふさがったことを告げた。
同じトカゲであるが故に怒りを買ってしまっただけで、彼女は危害を加えるどころか優しい心根を持った生物であったことを。
「知らなかった…僕はなんてことを」
「知らないのは当然のことです。人は意見を言っても、その過程である自分のものの見方、見た光景、知っている事実については飛躍してしまって話さないから共有されない。当たり前の前提になってしまうから、「わざわざ話さなくても相手だってわかってること」と認識してしまう。でもそれが伝わらないから「お前おかしいぞ」って考えになるんです」
いはるに念のためメラニズムのトカゲの詳細について涙に伝えたのか空が確認すると、彼は首を横に振った。
いはるはメラニズムのトカゲの話を、同じ反対派の隊員から聞かされて知っている。そしてそのメラニズムのトカゲがいい生物であったことは彼の中で当たり前のこととして認識された。だから喧嘩をしていても、涙にその話が共有されなかった。
「自分にとって当たり前のことが相手にとっても当たり前とは限らない。だけど人はえてして自分が当たり前だと思っていることをあまり説明せずに、それをみんなの当たり前という前提で人に話すから大事なことが伝わらないんです」
そう、これが今回の欠点だった。賛成派の見たことや価値観が反対派には共有されず、反対派の見たことや価値観が賛成派にきちんと伝わらなかった。
伝わっていたらチームが分かれていなかったとは言わない。だけど両チームの言い分をもっと理解出来ていた気がする。
知らなかった事実を聞かされ酷く落ち込む涙に、いはるは自分の靴を片方脱いでそれを彼に投げ「しっかりしろ、らしくないじゃん」と慰めた。もう喧嘩モードではないらしい。
「今英さんが気を落としているように、賛成派と反対派のどちらも、お互いに理解出来ないと思ったことがあるはずです。その理解できないの根本にある価値観や理由については、前提だと思って最初から相手の派閥に伝えることをしていなかった。だけどそれを伝えなかったことが、あの作戦の落ち度です。どちらが正しいとか、間違っているとかは、なかったように僕は思います」
沈黙する彼らのどちらかが何か言うのを緊張しながら待っていると、二人が微笑(わら)って嘆息した。
「そうだね。確かに、そう思うよ」
「頭に血がのぼって、そこまで考えが至らなかった感じじゃん」
「
「それな。まあでも空のおかげで、不毛ってわかっててやってた喧嘩から抜け出せたし。サンキュ空」
ほっと胸を撫でおろしながら「いえ」と答える。
「仲直りも済んだし、もやもやしてたことも解決したから七星のところ戻ろうっと」
「じゃあ俺はお礼に空をトンボドライブにでも誘おうかな?」
「行きませんよ」
自由過ぎる。この人達の行動は読めない。
だけど、いつもの二人に戻ってよかった。僕の意見が少しでも、意見の違いに衝していた二人の和解に役立ったなら嬉しいけど…。
空は胸中でそんなことを考えながら、苦笑した。
(買いかぶりすぎだよ山内さんも、英さんも。僕の強みだなんて言ってくれたけど、二人が二人の言うことを認めようって気持ちがなくちゃ、僕だってばらばらになってしまった二人の意見を一つには出来なかったんだし…)
でも、これでキュアノエイデス全体のギクシャクしたあの微妙で窮屈な雰囲気はなくなるかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます