いっぱいキスしてもいい?

今日は、春乃の方が、待ち合わせ場所に早くついた。

突然、ヌッと孝司が顔を覗きこむ。

「遅れてごめんね」

「びっくりした〜」

春乃の目が大きく見開いた。

「アハハ。行こ?」

「うん」


2人で一緒に帰るのは、一ヶ月振りだった。

孝司が少し前を歩いて、後ろに手をだす。

春乃は、その手を掴む。

そのまま、春乃は孝司の横に並ぶ。

2人は、見つめ合って、笑った。


孝司は、繋いだ手をポケットの中に入れる。

「温かいね」

「ね」 

2人少し黙る。


「受験終わってようやく一緒に帰れるね」

「うん」

「寂しかったな」

孝司の方が、言う。

「うん」


2人の別れ道に来た。

孝司が、春乃の手を自分の家の方に向かって軽く引っ張る。

「まだ、一緒にいよ」

「…うん…」

「やった!」

孝司の喜びように、春乃は笑った。


「今日、絵理たち、帰り遅いって」

「え?!」

「さっき一緒にいたいって言ったら、うん、て返事したよね」

(ずるい…)

春乃は、孝司を睨んだ。

孝司は、意地悪そうに笑った。


孝司が家の鍵を開けて後ろを見ると、春乃が固まっていた。

孝司はそっと手を繋いで、玄関へと促した。

春乃は、強張っていた。


「今日は、やめとこうか?」

「…」

「送ってく」

孝司は春乃の手を繋いで、歩いて行こうとした。


春乃はまたしても動かなかった。

「?」 

春乃は下を向いたままだった。

「一緒にいたい」


「さっき意地悪な事言ってごめんね…」

「うん」

「もう少し一緒にいてくれる…?」

「うん…」


絵理たちがいないから、二人はリビングにいた。

「お茶いる?」

「うん、ありがとう」

春乃は少しリラックスしてきた。


「孝司は、一か月ずっと勉強してたの?」

「そうだね。俺、パブロ兄ちゃんの影響力受けまくってるから」

「そうなの?」

「あの人、ああ見えて、すごいの。大学の時は、ずーっと1位」

「へー、そうなんだぁ」

「見えないしょ?」

孝司はニヤッと笑った。


「なんだかんだパブロさんの事、好きだよね」

「…うん」

「そっか」

「本当の兄ちゃんになってほしいってずっと思ってたからね」

「フフッ。カワイイね」

「可愛いでしょ」

孝司がニヤッとした。


「春乃、今日俺がすること嫌だったら、言ってね」

「え?…うん」

「隣座ってもいい?」

「うん」

ソファに2人並んで座る。


「今日、初めて春乃の教室入ったな」

「うん」

「カレカノっぽくて、嬉しかった」

「ぽい?」

孝司は笑った。

「付き合ってるけど、周りから見てさ…」「そうだね、俺も恥ずかしかったけど、嬉しかった。春乃独りじめだからね」

「私も孝司独り占め」

2人とも、顔を赤くしながら笑って言った。


「正直、俺と春乃じゃ、独り占めの重さが違うけどね。」

「…孝司は、二人に独り占めされてたもんね…」

「違う違う、そうじゃなくて。春乃人気あるから」

孝司が慌てて言う。

「悔しいな…」

「前のことじゃん…」


「ね…、孝司」

「ん?」

「前に、元カノが、部屋に来たって言ってたよね」

「ん?あぁ、そうかな」

「…すごい気になってた。…何してたのかなって」


「言いたくない…」

「聞きたい…」

「…」

「私としたこと以上の事、したよね?」

「やめよ…」

孝司はそっぽを向いた。


「答えないって事は、そういう事だよね…?」

「…。あのさ…。春乃と元カノは全然違うから」

「何が?」

「春乃の方がすごい好き」

「そうだとしても、元カノの事も好きだったんでしょ?」

「…。どうしたの?なんで急に…」

「急にじゃなくて。ずっと気にはなってた…」


「…そっか…」

「…何してたの?」

「普通に、話してただけ…」

「…うそ…」

「…だから言いたくない」

「家でしかできない事…した?」

「何で、そんなに…」


「…一ヶ月ずっと…。次、会ったら孝司と何するんだろうって考えてた…」

「うん、俺も…」

「彼女と、したこと以上の事、したいなって…少し考えた…」

「張り合わないでよ…」

「嫌、張り合う。孝司の、一番になりたい」

「そんな可愛い事言わないでよ…」

孝司の、顔が赤い。


「とっくに一番だよ」 

「うん、分かってるけど、」

「わかってるんだ」

孝司は笑った。

 「ね、私頑張る」

春乃は、孝司の手に触れる

「頑張んないで。普通でいて…」

手を優しく握り返しながら言った。

「やだ」

「…そんなこと言ったら…。俺、色々しちゃうよ?」

「うん」


「ハグしたり」

「うん」

「キスも」

「うん」

「…その後も…」

「…ん」


「せっかく、我慢してたのに…」

そう言うと、春乃を優しく抱きしめた。

「我慢しないくていい…」

「心臓やばいから」

次は、強く抱きしめた。

春乃も、孝司の背中に、手を回す。

少し体を離して、キスをした。

「いっぱいキスしていい…?」

「ん…」

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