うち来る?

孝司は、ついさっき入試が終わってヘトヘトで家に帰ってきた。

「お帰り、どうだった?」

パブロが軽い感じで聞いてきた。

「結構解けたよ。合格はすると思う」

「そっか。お疲れ」

「うん、疲れたぁ」


「パブロ兄ちゃんはさ、今年結婚するんでしょ?」

「そうだね、一応…」

「一応?」

孝司は何か嫌な予感がした。

「前にプロポーズしたきりで…何も決めてなくて…」

「…」

「孝司?」

「いい加減にしろよ…」

「ごめん」


孝司は、また二人の世話をやかなきゃいけないと思うとつらくて、春乃が恋しくなった。

(会って話がしたい)

孝司はため息をついた。


次の日、学校では、前日の入試の話でもちきりだった。

孝司は春乃がどうだったか気になった。


昼休み、孝司は春乃の教室に行った。

いつも春乃とは、帰りしか一緒にいないが、どうしても会いたかった。

「孝司?」

春乃は孝司を見つけると、嬉しそうに駆け寄った。

「入試どうだった?」

「多分大丈夫、春乃は?」

「うん、多分大丈夫だと思う」

「そっか良かった」


「ねぇ、座って喋ろう?」

「うん」

「こっち」

「…うん…」

(違う教室入るの恥ずかしいな…)

孝司はそう思ったが春乃が嬉しそうなので、素直に入る事にした。


孝司は春乃の前の席に座って後ろを向いた。

「孝司と同じ教室にいるの小学生ぶりだね」

「そうだね」

「嬉しいな」

春乃は孝司を見て微笑んだ。


「あのさ」

「ん?…あ、愚痴?」

「…はい」

孝司は心を見透かされて、恥ずかしくなった。

「絵理とパブロ兄ちゃんさ、俺が中学卒業したら結婚するのかと思ってたんだけどね」

「うん」

「パブロ兄ちゃんにさ、結婚いつにするの?って聞いたら、三年前にプロポーズしたきり、何も決まってないって…」

「そうなの?」

「うん…。あの二人、いい加減にしてほしい…」

「もう、ほっといたら…?」

春乃が笑いながら言った。

「そうできたらいいんだけどね…。もう、ここまできたら、最後まで面倒見なきゃね…」

「保護者みたい」

「ね」


「でも、ちょっと憂鬱になっちゃって。春乃に話したくて…。ごめんね…」

孝司は声を落として言った。

「谷川家、楽しいからいいよ」

「なんかそれ、湊君みたい」

「かもね…」

二人は笑う。


「中山先生のモデル…まだやってるの?」「…もう先月で終わった」

「そっか」

「うん、あんまり話さない方がいいのかと思って報告しなかった。嫌だったかな…?」

「ううん」

「ホント…?」

「うん」

「良かった」

春乃はホッとした。

「先生より俺の方が好きなんだもんね?」

少しふざけながら言った。

「うん、大好き」

孝司の目を見ながら言った。


「ちょっと…。やめて…」

孝司は恥ずかしくて、思わず目をそらした。


「…春乃ってたまに、すごいことやってくるよね…」

「アハハ。すごい事?」

「心臓、ギュッてなる」

「あざといでしょ?」

「…狙ってんの…?」

「うん」

「…嘘つくなよ」

孝司は軽く睨んだ。

「嘘じゃないもん」

「嘘だろうが」

「…ね、孝司の恋愛偏差値、私より下な気がしてきた…」

「…。…そうなの?」

(ちょっと最近、気になってはいた…)


「絵理達の事は、丸わかりなのになぁ。自分だとダメなのかなぁ。」

「うーん」

春乃が両手で頬杖をしながら、顔を除きこんできた。

「…うっ…。心臓が…」

「ギュって?」

「うん」

春乃は笑った。


孝司は、春乃の顔を見返した。

「ね…、今日うち来る…?」

「え…」

「受験終わったら、会おうって言ってたじゃん」

「うん…言ってたけど…」

「だめ…?」

「…」

「来てよ」

孝司は真面目な顔で言った。

春乃の顔が赤くなった。


「じゃ、もう昼休み終わるし、行くね」

孝司は、椅子を元に戻した。

「また帰りに」

孝司は、ニッコリ笑って、自分の教室に帰って行った。

(どう返せば良かったの…?)

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