手を離すのがもったいない…両思いの実感

それから2人は、毎日手を繋いで帰った。

毎日繋いでたら少しずつ慣れてきて、手を振り回したり、遊びで恋人繋ぎしたり、2人とも楽しくなってきた。

元々、話が合う二人なので、帰りが待ち遠しかった。


孝司は待ち合わせ場所の玄関の入口に立っていた。

あの春乃と毎日手を繋いで帰ってる男ということで、皆からジロジロ見られていた。


「孝司さん」

久しぶりに新が話しかけてきた。

「あ…久しぶり」

孝司は気まずそうに言った。

「春乃ちゃんと付き合う事になったんですね」

「あ…。…そうだね…」

「羨ましがってる人結構いますよ」

「だよね…」

(そういう人達に、告られないようにするために一緒に帰ってるからね)

「俺もだけど。ま、嘘ですけど。」

(ホントだろうな)

と孝司は思った。

「じゃ、お幸せに」

新はそう言って去って言った。


なかなか効果が出ているなと孝司は思った。


「おまたせー」

春乃がやってきた。

「ねー」

「ん?」

話をしながら手を繋ぐ。

「今度ね、中山晴人っていう画家の展覧会があって」

「春乃がずっと好きって言ってた人でしょ?」

「そうなの。講演会のチケット抽選だったんたけど、当たったの」

「良かったね」

「うん、来月楽しみ〜」

 

孝司はそんな春乃を微笑ましく見ていた。


孝司は、手を繋ぐのにも慣れてきたように見せてたが、ずっとドキドキしてた。

ふざけてやってる風に見てせて、恋人繋ぎをした。

受験もあるし、付き合いたいとはまだ思えないが、春乃を可愛く思っていた。


春乃は、孝司の想いには気づいてなかったが、とにかく楽しかった。

できればこのままがずっと続いてほしいと思っていた。


「じゃね」

「うん、じゃぁね」

2人は手を離すのが勿体ないかのように、ゆっくり離す。

お互い、この時だけ、両思いだという事を実感する。



春乃は、中山晴人の講演会に行った。

登場した姿を見た時びっくりした。

すごく若い男の人だった。

(年齢不詳と紹介されていたから、まさかこんなに若いとは…)


講演会は、すごく楽しかった。

絵の事だけではなく、自分のデザインの製品開発をしてるらしい。

さらに大学は、医学部に在席してて成績もトップクラスだと言っていた。

自慢するわけではなく、いったい何がやりたいのかわからないとおどけていた。


(あー、楽しかった)

春乃は、せっかくだから、サイン入の画集を買っていくことにした。

画集の隣に、中山晴人がデザインした、傘があってあまりにも可愛いので買ってしまった。


気分が良かったので、帰りに美術館の近くのパンケーキ屋さんに行ってきた。

(お腹も膨れて大満足〜)


帰りの電車で、中山晴人を見つけた。

(中山晴人だぁ!)

偶然帰りの電車が一緒だった。

春乃は思い切って話かけてみた。


「あの、」

中山晴人が春乃に気がついた。

「…。さっきの講演会にいた…?」

「え?!はい!覚えてるんですか…?すごい…」

「あー、美人だから気になってて…」

「え…」

春乃は照れた。

「あー!変な意味ではなくて…。」


中山晴人は焦った。

「モデルにいいなぁ。なんて思いながら見てたから…」

「え…」

「あー、ごめんごめん。気持ち悪かったね」「いえ…」


「…。ちなみに聞くけど、頼んだらやってくれたりする…?」

「え…、ありがたい話ですけど、モデルってどういう…」

「普通の服着て、あ、今着てるやつみたいな、それでいい感じに座って…みたいな感じかな…。絶対に、ヌードとかではないです」

真剣な目に春乃は笑ってしまった。


「私で良ければ、やります」

中山晴人は、屈託のない笑顔で、喜んだ。

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