握りしめた手…

「春乃ちゃん、昨日は、ごめんね」

新は春乃を廊下に呼び出し謝った。

「…うん」

春乃はだいぶ気まずそうにしていた。

「孝司さんにも怒られちゃった…」

「孝司?」

「うん、春乃ちゃんこういうの苦手だから、無理させないでって」

春乃は、あまりピントきてなかったが、いい気はしなかった。

「無理はさせないから…。ゆっくりでいいから付き合ってくれない…?」

「…ごめんね…」

春乃は、新を傷つけてしまった事もそうだが、孝司の態度に悲しくなった。



孝司とは、あれからずっと会っていなかった。

(会いたいな…)

孝司はずっと、春乃を避けていた。

新の腕を掴んで、春乃から引き離した事が、恥ずかしくて、会いづらかった。

(春乃が俺から逃げていた時の気持ちがわかった…)


孝司は学校が終わって家に帰ると、春乃が待っていた。

「前は孝司が待ってたから。仕返し」

「仕返し?」

孝司は軽く笑った。

「前はありがとう」

「余計なことしちゃった…」

孝司は申し訳なさそうに言った。


「嬉しかったのに…」

春乃はしょぼんとして言った。

「全然嬉しそうじゃないけど」

孝司軽く笑った。


「片瀬君のこと、好き?」

「好きじゃないよ。今日、ごめんって断った…」

「…そっか…」


「私と新くんがうまくいけばいいと思った…?」

「…わかんない」

「わかんない?」

「わかんない…」

孝司は暗い顔をした

「…片瀬くんが、春乃を絶対に大事するやつじゃないと…、許せない…と思った…。あの時は、春乃が嫌がってると思ったから…」

「うん、嫌だった」


「…俺…」

言葉に詰まる。

「…自分がどう思っているのか、わかんない…」

「そっか」

「でも、春乃を守りたい…」

下を向いて言った。

「うん」

孝司は下を向いたままだった。

春乃は、孝司に近づいて、孝司の袖をつまんだ。

でも、言葉は出なかった。

孝司は、袖の手をじっと見ると、その手を握った。


「バカップルに見られたら面倒さいね。家入る?」

春乃は首をふった。

「そっか」

孝司は握った手を離した。

「じゃね」

「うん、じゃ」


孝司が春乃と別れて家に入った直後に後ろから人が入ってきた。

「うわっ、びっくりしたぁ」

姉の絵理とその彼氏のパブロだった。

「誰がバカップルやねんっ」

パブロか突っ込んだ。


「…。も、最悪だよー…」

孝司は頭を抱えてしゃがみこんだ。

「どっから…」

「割りと最初の方から見てた…」

「見てんなよぉ!」

孝司は恥ずかしくてたまらなかった。

「付き合う事になったの?」

絵理が真剣に聞いてきた。

「付き合ってないよ」

「好きじゃないの?」

「知らん!」

家にズカズカ上がったら、絵理にまた呼び止められた。

「好きじゃないのに、手とか繋がない方がいいんじゃない?」

「あ?!」

「こわっ」

絵理はビビった。

「孝司、春乃ちゃんに勘違いさせちゃうじゃん」

「は?!」

「だから、怖いって」

絵理が言う。

「春乃ちゃん、ずっと孝司の事好きなの知ってるでしょ」

知ってて、当然のように言われた。

「…最近まで、知らなかった…」


絵理とパブロは驚いたように、顔を見合わせた。


孝司は、自分の鈍さに恥ずかしくなった。

「知らなかったとしても、ちゃんとしな」

「ちゃんと考るよ…」

「あんな可愛いのに、孝司に縛られてるのもったいない」

「縛ってねーし」

「縛ってるよ」

絵理とパブロの声がそろった。

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