とにかく近くに居てよ

次の日の朝の登校時間。


「春乃、おはよ」

学校で春乃を見た孝司は後ろから声をかけた。

「!」

驚いた春乃は下手くそな気づかないふりをして、走って行ってしまった。


春乃は孝司に別の場所で会っても、目が合っても、全部逃げた。


それが何日間も続いた。


小学校からの友達は、春乃と孝司の間に何かがあったとすぐわかった。


「春乃に何か言われた?」

孝司は学校の廊下で小学校からの友達の佐和に話かけられた。

「え…?」

「え、じゃなくて」

「え!?」

孝司はびっくりして言う。

「小学校の友達はほとんど分かってるよ」

佐和は、はっきりとは言わなかったが、言わんとしてる事は分かった。

「何で…?」

「知らないの孝司だけだから」

「うそ…」

自分がそんなに鈍感だとは思わなかった。

どっちかといえば、そういう方面は気が付く方だと思っていた。


「あのさ、何か言われたっていうか…」

(聞き出したっていうか、気付いたというか…)

「言っとくけど、春乃の恋愛スキル0だからね。もしかしたらマイナスの可能性もあるから」

「…うーん、そうだね…」

「…それは気がついてたんだ」

「どうしよ、すごい逃げていくんだよ」

孝司は困ったように、片手で頭を抱えた。

「知ってる」



春乃は孝司と会うのは恥ずかしくてたまらなかった。

(無理ー…)

「春乃ー」

佐和が話かけて来た。

「ん?」

春乃は少し慌てて言う。

「孝司話したがってたよ?」

「やだ」

「アハハ。はっきり言うね」

「もう会いたくない…。恥ずかしい」

春乃にとって佐和は、素直に気持ちを打ち明けられる友人だ。

時に、春乃の背中を押してくれて、だが絶対無理には押さない。

その絶妙な加減をしてくれるのが佐和だった。

「友達もやめちゃうの?」

「嫌だけど、しょうがない…」

「バカだね」

佐和は微笑みながら言った。

「孝司は寂しいんじゃない?」

春乃は首を振った。

「きっと困ってる」

「春乃に逃げられて困ってるよ」

佐和は優しく言った。



孝司は、何でも春乃に話をしてきた。

くだらない話でも、二人で笑ってきた。

そろそろ話したい事もたまってきて、春乃と話せない事が、ストレスになってきた。


春乃が家に帰ると、家の前に孝司がいた。

気づいた春乃は背中を向けて逃げようとした。

「待って」

孝司は、一瞬で追いついて春乃の手をとった。

春乃の顔が真っ赤になった。


「あのね、さっき家帰ったら、絵理とパブロ兄ちゃんがイチャついてて。最悪だった」

「?」

「あとね、数学のテストが80点で一番とれなくてヤバかった」

「?」

「春乃と喋れないのは辛いんだけど」

「…」

「なんか喋って」

「…」

春乃は黙ったままだった。

「俺と喋るの嫌…か…」

「…」

孝司は手を離して帰ろうとした。


「あのね」

春乃の声が聞こえて孝司は振り返った。

「私も数学ヤバかった。65点。過去最低…」

「ヤバいね」

孝司は少し笑った。

春乃も少し笑った。


「…」

「じゃ、明日ね」

孝司は、少しだけホッとして帰ろうとした。

「あのね、」

春乃が話かけてきた。

孝司は振り返る。

「この前の…?忘れてほしい…」

「…」

今度は、孝司が黙った。

「前みたいになりたい」

「…うん」

孝司の返事を聞いて、春乃はホッとした。「それで…春乃が近くにいてくれるなら、それでいい」

「?」

春乃はよく分からなかった。

分かって無いなと思った孝司は、言い換えた。

「とにかく、近くにいて欲しい」

孝司に言われて春乃は顔が赤くなる。

「春乃がいなきゃつまらない。あと、春乃の気持ちは忘れない。好きかは、まだわからないけど。ちゃんと考えたい」

「それが嫌だ」

「だめ」

「嫌」

「俺の勝手でしょ」

孝司は少し強く言った。

「それでも嫌だよ」

春乃は悲しそうな顔だった。

「分かった…」

春乃は孝司が離れていきそうで怖くて、孝司の顔を見た。

「受験あるしね、高校に入るまでは、忘れる」

「うん!良かった〜!」

春乃がものすごいホッとして言うので、

孝司は笑ってしまった。

「ハハッ。本当、可愛いね」

孝司にそう言われ春乃は顔が赤くなった。

「今のバカにして言ってるから」

孝司がそういうと、孝司の腕をグーで叩いて、その後すぐに笑った。

孝司はホッとして、嬉しくて笑った。

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