俺の事…?

授業が終わり、春乃と孝司は一緒に下校していた。

2人で一緒に帰ることは、少なくはない。

お互い気まぐれで相手の教室に行って声をかけていた。

今日は孝司が春乃を誘った。


「あー、疲れた」

孝司は欠伸をした。

「今日5時間授業だったのに?」

「うーん。昨日寝るの遅かったから」

「また、勉強ですか」

「うん」

「そんなんで、よく彼女なんてつくれたね」

「ね」

孝司は笑った。

春乃は自分でこの話題をふっておいて、1人で傷ついていた。


「ねぇ。春乃。今日、遊ばない?」

「うん。いいよ」

「じゃ、俺の家でいい?」

「うん、じゃ後で行く。今日は何の話?」 

春乃は笑って聞いた。

春乃と孝司はくだらない事でもお互いにすぐに話すのが、当たり前になっていた。

「うん。この前、元カノと会ってさ…」

(うわ…。断りたい…)



「お邪魔します」

春乃は孝司の家に入っていった。

「どうぞ。部屋入ってて。お茶持っていく」

「うん…」


「元カノがさ…」

孝司が春乃に、お茶の入ったコップを渡しながら喋りだした。

(わ、やだな…)

春乃は孝司の話を聞きたくなかった。

「俺の部屋来たときね、」

(しかも、部屋って…)

「春乃が写ってる写真を見たみたいでさぁ。飾ってあるやつね。それが原因で別れたいって思ったって」

孝司は笑いながら話した。

「へぇ…」

「なんでだろうね。俺はそんなの

気にし過ぎだと思うんだけど」

孝司はまた笑った。

「そうだね…」

「女子だけどさ、友達なのにね」


「そうだね…。なんでだろ…」 

春乃は適当に返事をした。

「ね。それじゃ、一生彼女できないじゃんね」

「ね…」

(やっぱり、一生私は孝司と付き合えないんだ…)


「春乃?」

「…ん?」

「元気ない?」

「ん?普通だよ」

「…そう?」

「…」

「?」


返事が無かったたので、孝司は春乃の顔を見た。

「!どうしたの?」

「なんでもない…」

春乃は、そう言いながら大粒の涙を流していた。

涙が出すぎて何も言えなかった。

「大丈夫?」

孝司が春乃の顔を除こむと、春乃の顔が真っ赤になった。

「…?」

孝司が春乃の泣いているのを見るのは、幼稚園ぶりだったかもしれない。

「どうしたの?」

孝司が聞くと、春乃は首を振った。


春乃はここまで、孝司に何も思われてないのかと思い、悲しくなった。

言葉で気持ちを隠せても、悲しい涙は溢れて止まらなかった。

春乃は子供みたいに泣いていた。


だいぶ時間たったあと、

「…ごめ…ん。元カノの話だったよね」

春乃は涙を拭きながら言った。

「え…?」

「あの子可愛かったよね。別れちゃったのもったいないなかったね」

「元カノの話はいいよ。具合悪いんじゃない?」

「ううん。大丈夫」

春乃はそう言った途端また涙が出てきた。

「ほら」

孝司は春乃の肩に手をかけた。

春乃がびっくりして、顔を上げた。

もっと顔が赤くなっていた。

「あ、ごめん」

孝司はすぐに手を引っ込めた。

春乃は顔をそむけた。


(…なんか…。なんていうか…)

孝司は、じっと春乃を見た。


「春乃…こっち見れる?」

春乃は大きく首をふる。


「春乃…」

「…」

「春乃…、こっち見て」

「…」

春乃は下を向く。

「春乃…。…俺の事…、好き…だったりする…?」

今度は、激しく首を振った。

激しく首をふるのは、春乃の昔からの癖だった。

孝司は、それがイエスの意味だと知っていた。


孝司はこれまでの事を思い出した。

(昔より、変な違和感が増えていたのは気がついていた。年のせいかと思っていたけど…)

孝司は思い出す記憶が多すぎて頭がパンクしそうだった。

「春乃、ちょっと待ってて…。ちょっと…」

そう言うと、頭をクシャッとして考え込んた。


「全然分からなかった…。いつから?」

春乃は黙ってうつむいてたが、小さな声で、

「…幼稚園…」

とつぶやいた。


「え?!?!」

孝司は結構な大声を出した。

「…ずっと?」

「…」

沈黙が、答えだった。

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