片思いをこじらせる

誰もが認めるほど美人でスペックの高いの春乃だが、孝司の事に関しては完全に萎縮してしまっていた。


春乃の目は孝司を追っているのに、孝司がそれに気がつくと、目をそらし何処かに逃げていた。

それをずっと見ていた友達の佐和は、あまりにも煮えきらないので、

「春乃、孝司に告ってみたら?絶対大丈夫だよ」

と提案してみた。

「無理っ。もうちょっと仲良くなってから…」

「え…。十分に仲いいじゃん…」

「ムリムリムリムリ…」

(ちょっとアホ…?)

佐和はもちろん、クラスの友達は早く告白して付き合えばいいのにと、思っていた。


春乃は、孝司を好きなことを本人に知られるのが怖くて、逆に好きじゃないよアピールをしてしまっていた。


ある日の帰り道。

「隣のクラスのミサちゃんて子、孝司の事好きって言ってたよ」

「へー、話したことないけど」

「孝司、意外とモテるみたいだね」

「ハハッ。それはないでしょ」

「だって…」

「モテるのは、春乃でしょ」

「ぜっ、全然だよ!」

「前、告られたんでしょ?」

「…うん」

「付き合わないの?」

「私の好きなタイプ年上だからっ!」

「年上?!また随分と難しい…。くないか、春乃なら…」

「いや…」

「いい年上男子見つかるといいね」

孝司は笑って言った。

春乃は、自分で自分を追い詰めて、思わずうつむいてしまった。

「春乃?大丈夫?」

「あぁ、全然」

春乃は急いで顔を上げて笑った。


中学生になると、違う小学校から来た人もいて、その人たちは、春乃が片思いをこじらせている事を知らなかったので、普通に春乃に告白してくる男子もたくさん出てきた。


そして孝司は、中学生になって急に背が伸び

、相変わらず成績もトップで、一目置かれるようになった。

ポツポツではあるが、告白もされ始めた。


そして、孝司に彼女ができたとき、

(あぁ…)

小学校からの友達は皆落胆した。 



春乃は学校の廊下で孝司に偶然あった。

「孝司」

「ん?おぉ。春乃のクラスも移動教室?」

「うん」

「孝司、…彼女とはうまくいってる?」

「うん」

「どんな子だっけ?」

「あー、あそこにいるわ」

孝司が、前を向け歩いてる女子を一瞬だけ指をさした。

「…かわいい子だね」

「んー、ま、話してて面白いよ」

孝司の嬉しそうな顔を見て、春乃は胸が潰れそうだった。

「へー…。いいな、私も彼氏欲しいな」

「春乃の気が向けば、いつでもできるでしょ。」

「そうかな」

「選び放題だよ」

孝司は笑った。

そう言って、孝司は手を振って行ってしまった。


(彼氏になってほしいのは孝司だよ…)

と思っていたけど、口になんて出せなかった。


実は、春乃は一回だけ、告白された男子と付き合った事がある。

隣のクラスの学級委員で、頭良くて、明るくて、人気のあるタイプだった。

でも、一週間くらいで別れた。


「なんで別れたの?」

孝司は春乃の家でゴロゴロ漫画を読みながら聞いた。

「…好きになれるかなって思ったけど、なれなかった…」

小さな声で言った。

「ふーん。春乃の好きなタイプってどんなのだっけ?」

「え?!えっと…」

少し黙ったあと、

「顔と頭がよくて、優しい人かな」

「それだけなら、いそうだけど、」

「顔っ。その人の顔がタイプじゃなくて」

「…」

「何?」

「美人は、顔の標準レベルが高いんだろうね」

孝司は、少し呆れたように言った。


(春乃って、そんなにイケメン好きだったかなぁ?メガネスーツの漫才師をかっこいいと言っていくらいだし、メンクイとは思えない…。男が苦手ってわけではないはずなのに…。美人で頭が良くて人気者でも、恋愛は下手すぎるのは致命的だな…)

孝司はそう思いながら、漫画の次の巻を取った。


孝司はまさか、春乃の恋の相手が自分だなんて微塵も思っていなかった。

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