謎の店は本屋だろう

天西 照実

不思議屋

 

 立ち読みしたり本を買ったり。

 私の目的は、この店の本だ。

 それなら、ここは『本屋』と言って良いはず。

 店の看板には『不思議屋』と書かれている。

 何の店だかわからないのだ。



 この店と出会ったのは数年前。

 何を扱っているのかわからない店に、よく入れたものだと我ながら感心する。

 始めは古道具屋か何かだと思っていた。

 薄暗い店内には、背の高い商品棚が不規則に並べられている。

 ランプの明かりに照らされた店の奥に、自然と足が進んだ。

 そこには壁一面、古い本棚が広がっていた。

 段数も不規則な棚が並び、本の大きさも滅茶苦茶に押し込まれている。

 それでも、不思議と落ち着ける場所だった。



 初めて買ったのは、どこかの国の植物図鑑のような本だ。

 外国の言葉で書かれているので読めないが、草花のイラストがキレイで気に入った。

 値札が見当たらず、迷ったが店の人に聞いてみようと思った。


 本棚から反対側の壁に、銭湯の番台のような囲み机があった。

 近付いてみれば、代金を入れるような楕円の皿が置かれている。

 そして、その正面には大きな置物があった。

 古布ふるぬのを巻かれた仏像か何かかと思ったら、ゆっくりと目を開けたのだ。

 不可思議な現象に遭遇したのかと、内心ひそかに心躍ってしまった。

 しかし、なんという事はない。

 それはスカーフを被った老人だったのだ。

「……いらっしゃい」

 声は老婆のようだった。

 この店の店主らしい。

 店主は私の手にある本を見ると、

「それは300円だよ」

 と、言った。

 思ったより安かった。古本なのだろう。


 それ以来、その店でイラストのキレイな本を探しては、どこかの国の何かの本を購入している。

 店内の他の棚には、何かのビン詰めや人形のような置物、ガラスや金属の塊が並ぶ棚もある。

 いつか目を向けてみようかとは思うが、不思議と興味は惹かれない。

 私の目的は、この店の本棚だ。



 誰にも教えたくない。

 ここは、私のお気に入りの本屋だ。

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