桜花は一片の約束 ――Ultraviolet
ここはずいぶん真っ暗だね。なにがどうなっているんだか、さっぱりわからない。
まだ何も始まっていないからね。しょうがないよ。
それと暗いことと何の関係があるのさ。
何かが始まる前は、いつも暗いものなのさ。演劇の始まる前。映画の始まる前。天地創造の前……
そうかな。夜から朝になるのは、別に何かが始まるからじゃないでしょ。
小賢しいことを言う奴だ。俺が言っているのはそういうことじゃない。演劇が始まる前に暗いのは、太陽が昇っているか沈んでいるかとは関係ないだろ。
いま、ここが暗いのは、太陽が沈んでいるからじゃないか。
そうとも言えるけど、そうじゃない。いま、ここが暗いのは、月のせいなんだ。
はあ?
あそこを見てみろ。空に月があるだろ?
見えないよ。
ほら、あそこだよあそこ。
いや、だからどこさ。ていうか、あんた、指さしてるの? なんにも見えないんだけど。
ああ、そうか。じゃあ感じるんだな。目には見えなくても、あるんだ。
わかんないよ。
俺やお前の姿は見えなくても、いるのはわかるだろ?
そりゃあ、あんたは喋っているから、いるのはわかるけど。月は喋ったりしないしなあ。
においはどう?
言われてみると確かに、微かに何かいい香りがしてるよね。なんだろ。でもさ、これが月の香りだとは言わないでくれよ。
言わないよ。そういうことじゃなくて、見えなくったって、あるものはあるって言いたいんだ。
わけわかんないよ。
まあ、そのうち見えるようになるから、黙って待ってな。そのために俺たちはここにいるんだろ。
どういうこと?
物語には観客が必要だってことさ。
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