この世界はあべこべだった
『今日の朝7時50分に○○県△▲△市□■□の××中学校で強姦未遂が発生しました。今日は中学校の入学式であり、男子生徒の案内役を務めていた生徒会長が犯行を行ったものと……』
ピッ
『先日の四月三日に行われた拉致監禁事件ですが先程警察が突入し、被害者の30歳男性の保護と実行犯の確保に成功しました。実行犯は、「監禁なんてしてない!あの人を私は両思いだもの!私の名前を呼んでくれたんだから!」と供述しており、優しい男性に会った結果感情がコントロール出来なくなったものと……』
ピッ
『最新の研究でDNA編集、いわゆるデザイナーベビーの男性を作る事は不可能であると発表されました。当初、DNA編集によって男性の出生率を上げる事を期待されていましたが残念ながらその希望はなくなりました。また男性の出生率が前年比で0.1%下がっていることから更に男性の数は減って……』
ピッ
俺はテレビの電源を消した。
やあ。俺ことかなとは12歳になった。
そうそう、ついでに俺の名前の漢字もわかった。奏斗っていうらしい。かっこいい文字で本当に良かったと思う。
ちなみに奏斗って名前には成し遂げるっていう意味と…………以下略
おっと、俺が話そうとしていた事はこれじゃなかった。
この世界と前世の違いを話したかったんだよ。
そう、さっきのニュースから分かる通りこの世界は前世と少し違う。
前世で強姦未遂だとか拉致監禁だとかを起こすのは大体男だった。
けれどこの世界では女性が起こす事が圧倒的に多い。いやほぼ100%女性が実行犯である。
なぜそんなことになるのか……それはこの世界の男女比が原因だ。
男女比1:100
とんでもない数値だよな。
でもだ。この世界は最初からこうだったわけじゃない。
◇◆◇
時は戻り1960年。第二次世界大戦が収束した後世界は冷戦に突入していた。
各国が核ミサイルを持つ中、それを発射したバカがいたのだ。
なぜそんなことをしたのかは記録に残っていないが、ロクな理由ではないだろう。とにかくそれによって核戦争が勃発。その結果北半球どころか全世界が被爆し、人類は滅亡するものと思われた。
しかし、そこに天才科学者と天才生物学者が現れた。
天才科学者は、汚染された土地を短期間で除染する方法を発明。
天才生物学者は、被爆した人の治療法を確立した。
これにより世界は滅びず、人類は絶滅することも無くなった。
そして国は講和条約を結び復興に励んだ。
こうして世界に日常が戻りました……とはならなかった。
異変が最初に発見されたのは比較的被害の少なかった日本国だった。
千葉のとある病院が気になる統計を国と医師会に報告したのだ。
それは新たに生まれた新生児の男女比が1:2だったという報告書であった。
当初それは偶然だろうと笑い飛ばされたが、次々に同じ様な報告書が提出されるとさすがに国も焦って調査を行った。
その結果、おそらく放射線のせいで男性の出生率が下がっているというものだった。
そしてそれは世界各地で確認されることなる。
この問題を解決すべくありとあらゆる研究が行われたが、結局有効なものは発見されなかった。
それから100年が経ち2060年。
戦争の傷跡は見る影も無くなった世界の男女比は1:100にまで広がったのだった。
野島元気著『子供のための男女比の歴史』より抜粋
※注 これは男性の書いた本であるから文体がめちゃくちゃなだけである。
◇◆◇
なんともふざけた本だけどこれがこの世界の歴史なのだ。
俺も初めてこの本を読んだ時は愕然としたよ。(当時1歳)
俺の人生どうなんの?普通の暮らしできるの?資源のように管理されるとかない?って。
結論――問題なかった。
前世に比べて男性が、めちゃくちゃ優遇されていて超大切にされていること以外には大きな違いは存在しなかった。
優遇と一言で言っても貰える物は貰っておく主義の俺の気が引けちゃうぐらいの優遇だったのだが。
それに…「かなとー!お姉ちゃんが帰ってきたわよ!」
我が姉のご帰還である。
姉の麗奈はリビングの扉を勢いよく開け、俺の姿を発見すると素早く駆け寄ってきて俺に抱きついてくる。
飛びつかず、勢いを殺して抱きついてくるあたりから、過保護っぷりが分かるだろう。
「奏斗の匂いだ〜疲れが消えてく……やっぱり奏斗は元気の元ね」
嗅ぐだけで元気が出るとか、俺はアヘンかなんかなのだろうか?
「お疲れ様。レイナ姉」
そう言って俺は姉さんの絹のような艶やかな銀髪を撫でる。
そう銀髪である。
さっきの話から分かるように男性とはとても希少な存在なのだ。
それが理由で、この世界では人工授精が一般的でありその例に漏れず俺と姉さんも人工授精で生まれている。
そして俺は日本人の精子を、姉さんはロシア人の精子提供を受け生まれていた。
「うぇへへへ……あ、奏斗お留守番の間変な事なかった?不審者がうろついてて怖かったとか」
俺に頭を撫でられ、だらしなく顔を緩めていた(それでも可愛いんだから美人ってすごい)姉さんが急に思い出したように聞いてきた。
「特に変な事はなかったよ。それにさっきまでは武蔵さんがいたから」
姉さんは心配してくれているが、俺はついさっき急用が入ったという事で帰ってしまったお手伝い兼護衛の恐神武蔵さんがいる限り、軍でも攻めてこない限り絶対安全だと思っている。だってあの人、人間辞めてるから。
「そっか〜なら安心だね」
「あの人の存在感はすごいからね。……もういい時間だしそろそろ風呂に入ってきたら?俺はもう入ったから」
「あ、そうね。奏斗も明日の準備があるもんね(お風呂に奏斗の残り汁が……!?)」
お姉ちゃん行ってくるー、と言いながら洗面所姉さんは消えていった。
◇◆◇◆◇
次話は19時投稿です。
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