第16話
チャール公爵家での出来事から、休息日が2回まわった頃、チャール公爵夫妻が縄で縛った状態のベルトンを脇に抱えて、グラレス家に来訪してきた。
「こちらはグラレス子爵家でございます。本日はどういった御用でしょうか?」
「今日はセリア嬢に嫡男の勉強を見てもらおうと思ってな。言い忘れたが、身分に関しては他言無用だからな?」
「は、はいっ!」
庭師が挙動不審になりながら、公爵一家を連れて屋敷に
屋敷の入り口では侍女が複数人待機しており、騎士と思われる数人が遠くで睨みを利かせていた。まるで高貴な貴族の屋敷であるかのようだった。
庭師もセリアに気付くと姿勢を正し、声を掛けた。公爵夫人は屋敷内を見て、表面上微笑みを振りまき、内面のみ驚いていた。
「ご機嫌よう、チャール公爵様。本日はお日柄もよく…」
「ああ、社交辞令は要らん。今日は用があって来たのでな。ベルトンの勉強の指導をしてもらいたく参ったのだ。急に押しかけたのだ、何か不備はないだろうか?」
「大丈夫ですわ、公爵閣下。応接間に案内させますので、ごゆっくりお過ごしください。私も同行いたします。…そこの。応接間に茶と菓子を用意なさい。」
『はっ』
「では、参りましょう。教材は既に用意できております。」
「あ、ああ。すまないな、ありがたく満喫しよう。ベルトンも、ゆっくりすると良い。」
「…はい」
セリアは屋敷内に佇む侍女の1人に応接間への案内に抜擢し、他の侍女に茶菓子を用意するように声を掛けた。その光景は女主人に従うかのようなテキパキとした動きで、侍女がこなしていく。
侍女に案内される間も、公爵夫妻は驚きが続いた。廊下や壁も質素な雰囲気だが、騎士の一挙一動に目を見張るものが多かったからだった。
窓側では小さめの槍を持った騎士が等間隔で配置されており、応接間であると思われる奥の部屋では侍女が交代で用意が進まれていた。公爵夫妻が応接間に着いた頃には既に用意が成されたのか、侍女が数人だけ部屋に立った状態で持て成された。
部屋にはロングテーブルに椅子が置かれ、テーブルの上には紅茶と茶菓子と思われる物が小皿に置かれていた。端には本が数点置かれ、隅の方では騎士が武装せずに立っている。
「では、お掛けください。」
『…はあ』
「ん?…あ」
「あら。ベルトン様、その椅子が気に入りましたか?」
『………』
公爵夫妻が応接間の椅子へ向かおうとした一瞬でベルトンは公爵から離れて先に椅子に座ってしまった。その場所は上座であったので、公爵夫妻は呆れ半分、怒り半分といった雰囲気だった。
それでもセリアは分かっていたかのように、無視して本題に入ろうとする。そのままでは居た堪れないので、公爵夫人の手によって確保される。
「…では公爵閣下、教材をお渡しいたします。」
「いや、申し訳ない。なかなか治らなくて困ってしまうんだよ。…ナタリー、ベルトンを頼む。」
「ええ…。」
「…んぐっ!」
「さて。教材を渡しますが、私は教えることまで世話はしません。この条件での約束だったので、構いませんね?」
「…ああ、構わない。私としては…
「私は構います!教材を用意してもらったことには感謝します。ですが公爵家が頼むのですから、それ相応の対応があるのではありませんか?」
「………」
「私は夫と違います。その約束に追加で教えることも加えます。これは高位貴族の夫人である私からの命令です!もし断るのでしたら、今ここで社交界に出れないよう手配します。」
「それが公爵家の決断ですね?」
「そうです。私は貴族として何も間違ったことは申していません!私達とあなたでは貴族位が違うことを忘れないで頂きたい。」
教材を渡した後に注意事項と確認をしようと思っていたセリアだったが、公爵夫人であるナタリーがコリン公爵の発言を遮って、セリアが無言であることを良いことに言い放った。公爵は夫人の言いがかりに頭を抱えて眉間に皺が寄っていく。
その最中もセリアは平然としていたが、周囲にいた侍女達は公爵夫人を睨んでいた。
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