第17話


「分かりました」


「(ほっ。)…では、ベルトンに学ばせていただけるということに…」


「なぜ学生である私が講師の真似事をしなければならないのでしょうか?」


「なんですって!」


「…どうやら私とはソリが合わないようです。ですので、私は此度の件から手を引きます。」


「なっ。それは…

 「待っていただきたい!約束を破るようなことになったことは謝る。どうか手を引くなどと言わないでもらいたい。この通り…」


「知りません。こちらは別に行っても拒否しても良いのですし、本日の予定を崩したのですから私は席を外しましょう。」


「待ちなさい!話はまだ終わっていないわ。さあ早くっ…!?」


 公爵夫人の言動に向けて周囲にいた騎士から殺気が漏れ出て、公爵夫人を怯ませる。公爵は怯んだ夫人を力で押さえつけ、ベルトンを抱え上げる。

 その間も、殺気は公爵夫妻の額から冷や汗が出るほどに濃度を高めていくが、セリアが手を2度叩くと殺気は霧散する。


「お帰りください。先程の返事は保留とさせていただきます。次に会う時を待っています。…公爵閣下のお帰りです、入り口まで丁寧に案内をなさってください。」


『はっ』


 それからすぐに公爵は馬車に乗り込み、屋敷を後にする。その後ろ姿を見ながら、セリアが支援している方々に知らせるように指示を出した。報復とまで言わずとも、些細な出来事でやり返そうと動きだすことにした。

 この指示により、商業組合に属していない者で活動していた王都の店が数点畳むことになる。貴族御用達に関わっていた者が少なくない程、連絡が取れなくなった。


 この問題に真っ先に当たったのは伯爵以上の貴族に関わっていた者だった。多くは御用達が必要な物を作っていたが、これが居なくなった途端、屋敷内から些細な綻びが出始めていた。

 チャール公爵では食糧庫などが多いため平穏な生活が続いていたが、執事や家令からの報告に頭を悩ませていた。料理人だった者からの辞職から始まり、仕立て屋から取引の凍結や、騎士からの不満だった。取引が凍結されても数日は無視を決めていたが、数日経った頃には些細な問題が多くし掛かってきた。

 大きいもので鍛冶屋の拒絶に留まり、小さいものでも夫人御用達であった取引先からの凍結までのぼった。その被害に対して、不平不満を撒き散らしていた夫人を黙らせ、取引先へ向かうも指定された場所には既に店が無かった。近辺に聞いてみれば、貴族の反感を買ったので離れると聞く。

 この問題にも異を唱えた夫人だったが、これまで関わらせていなかった書類決済を強引に渡すと、今までのことが嘘であったかのように動き出す。そこから出てきたことが、セリアの約束を破った事と関係があることに気付けない夫人であった。

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