第11話


「ああ…。チャール公爵子息でしたか。こんな場所で会えるとは意外ですね、何か用でもあったのですか?」


「あ…あぁ。いや、別に大したことでは」


「…ゴホン。こちらに入っていくのをベルトン様が見かけられましたので。様子見に来たのですが、この状況でして。挨拶は後日とさせて頂けますか?」


 セリアからの会話に付いて行けてないベルトンを察して、従者が代わって返事を返す。


「ええ、勿論構いませんわ。道中、お気を付けて。帰宅されれば、きっとリラックスされると良いでしょう」


「…ははは。」


「では、ご機嫌よう。」


 セリアは御者に帰路を伝えて冒険者組合の前を去っていく。それを見届けた従者はベルトンを馬車まで連れて行き、帰路に向かった。

 その光景が終わり、セリアを乗せた馬車もベルトンが乗った馬車も冒険者組合から遠く離れた頃、やっと動けるようになった冒険者は酒場へと向かう。

 セリアを担当した受付嬢は放心状態だったので、他の受付嬢に放置され、その日は早めに組合を閉じた。その受付嬢が元に戻った頃には辺りが暗くなった時だった。



 冒険者組合から出てきた冒険者たちは早めの食事で酒場に来ていた。

 酒場の丸テーブルが並ぶ端の一角で、ある冒険者パーティーが暗い顔をした1人を囲んで話し合っている。周囲の荒くれ者も冒険者も気になって、鳴りを潜めて様子を窺っている。


「おい、大丈夫か?」


「顔色が悪いぞ、何か頼もう。もしかして、あの時の令嬢に脈ありか?」


「はっ!? ちっ違うよ、それより箱が気になってな。」


「箱って、あの小さい箱か。何か貴族の物事に関わりが有りそうな物だろうしな。下手に詮索しない方が身の為ってもんだ。」


「だな。『契約』って聞いたから、何かの取り決めかもな。貴族は平民と違って、訳ありが多いって聞くし。」


「オレ、あの箱に入ってた物を昔見たことがあるんだよ。」


『はっ?』


 顔色が悪かった冒険者は急に声を潜めて告げたが、その場にいた者は驚きのあまり間の抜けた声が上がった。

 その言葉に、給仕をしていた者も、食事をしていた者も、先が気になって仕方がないように聞き入る。


「オレの実家さ、商人やってて。それで、よく領主の頼みで商品を受け取っていたんだ。その時、毎回親父が紙を持っていって、領主が判子を押していたんだ。…その度に礼を言っていたのを思い出したんだ。」


『………』


「あの令嬢が持ってきてたのが、それに似過ぎてると思ったんだ。もし本当のことだったら、組合長が帰ってきた後が気になる。…これって俺たちじゃ、…対処できなくね?」


『………』


「んじゃ、状況が変わるまで黙っとこうぜ!どうせなら、あの令嬢に役立っておけば良い印象を与えれるんじゃね?」


『よし!何とかできる気がしてきたぞ!』


「…でもさ。あの受付嬢は詰んだな。でも組合長が戻るまで、仕事しないわけにもいかないし。」


「なら常備依頼で回すしかないだろ。一応さっきの話を聞いて酒場のマスターも協力してくれるらしいし。」


「よし、決定だな。明日から受付嬢、特にあの受付には行かないぞ!」


『おおお~』


 ほんの短いやり取りで、冒険者の間で結束が生まれた瞬間だった。

 だがそれも酒場の中だけであり、冒険者組合の建物では既に一幕起きていた。

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