第10話


 それからセリアに向けた嫌がらせが続いていたのだが、本人は気にも止めず、逆に騒動が起きなかった。

 そんな日々が続いて苛ついていたベルトンは市場に向かった護衛付きのセリアの後方から追っていく。ベルトンとしては、『ちょっと脅して助ける』という軽い気持ちだった。

 だがセリアの向かった場所が悪かった。建物に入ってからベルトンは緊迫した状況に硬直していた。

 従者が邪魔に思い、邪魔にならない脇へ移動させる。その中は人が多いのに対して異様に静かで、受付嬢とセリアの会話が響くように聞こえてた。


「こんにちは、セリア様。本日の御用向きは何でしょうか?」


「はい。王都周辺での薬草採取をしようかと思いまして。それと面倒事が起こるかもしれないので、冒険者を1日だけ雇おうと思いまして」


「そうでしたか。でしたら、ちょうどBランク冒険者がおりますので、そちらで良いですか?Bランクなら銀貨3枚です。Cランクなら銅貨5枚といったところでしょう」


 受付嬢は近くのテーブルで食事をしている革鎧を着た男を見ながら提案してみる。しかしセリアへ視線を戻してみると、懐の巾着から銅貨がテーブルに置かれていた。


「ええ、ではCランク冒険者をお願いします。指名で、ノノエルに。」


「…よろしいのですか?安全を考えるならば、ランクの高い者の方が都合が合うかと。それに」


「決定事項です。ノノエルは居ないのですか?」


 セリアの押しに負けた受付嬢は他の冒険者を流し見ながら提案を持ち掛ける。

 それでも止める方針を変えないセリアに


「は…はい。今は依頼に出掛けております。今日は戻らないかと思われますが、お呼び出ししましょうか?」


「いいえ、私の気紛れに引っ張るのは忍びないので遠慮します。では」


「お待ちください!ランクの高い方を選んで頂かないと、組合としての面目が立ちません。…どうしても例の冒険者にしたいなら、こちらも手はあります」


「そうですか、それでは私からも打てる手があります。それを出す前に、冒険者組合としての対応に間違いはない、と言える行動でしょうか?」


「ええ、いえます。組合長は不在なので、組合長に指名された私の判断が組合の総意、ということになります。」


 セリアは受付嬢の言葉に顔が引き攣りながらも注意をするが、受付嬢は止まらなかった。そこでセリアは持参していたバッグから紙と箱を取り出した。その箱にはグラレス領の家紋があり、その箱を見ていた冒険者の1人が後退あとずさる。

 それに気付いたのは同じパーティーだけでなく、入り口の脇から見ていたベルトンの従者もセリアの行動に青褪める。その間も、ベルトン本人は行動を起こしていなかったが。


「分かりました。では本日の対応に対して納得がいかないので、この私が契約破棄を決定します。以後、この件について判断を変えるつもりはありませんので、ご了承ください。」


「ええと、その紙はどういったものでしょうか?契約破棄と聞こえましたが、我々一同はその事を知りません。分かるようにお願いします。」


「いえ。末端の人が知らなくても仕方ありません。冒険者組合の組合長と契約した物を、この場で解消したに過ぎません。こちらの紙は処分しても構いません。では興が冷めたので、今日は帰ります」


「…ええ、次回の来訪をお待ちしております。」


 その会話が終わっても組合内の冒険者は誰も動けず、ベルトンの従者も去るのを待つばかりだった。それも叶わず、扉前でベルトンに振り返った。

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