第8話


「お嬢様、もうそろそろ出た方が宜しいかと。ローナの事は侍女長である私めが致しましょう。」


「頼んだわ、侍女長。多分、もう少しの間、踏ん張ってちょうだい。あと少しで準備できるから、それから情報を漏らしても構いませんから。」


「はい。…お気を付けて行ってらっしゃいませ」


 セリアはシリア商会へ向けて昨晩に使った道を逆走しながら、商業組合の話が何かを考え始めた。



 シリア商会に着き、手短に職員へ挨拶を済ませ、ドレスから商会の服装に変える。騎士鎧から上等な衣服に着替えた騎士を2人連れ、来訪した者がいる宿へ向かっていく。

 貧民街を通っていると、周囲の建物の外見も良く、舗装された道に近付いていく。その舗装されている先には大勢人が通る大通りとなっており、その通りを領地で正面通りという。

 その正面通りの手前にある木製の看板を掲げた宿屋に向けて歩いていく。


 宿に着いてから騎士の1人が給仕に取り次ぎをしに行き、もう1人の騎士とセリアは宿の入り口近くの木陰で控える。

 騎士が向かってから暫くすると、取り次ぎできたのか緩やかな足取りで戻ってくる。そしてセリアのもとに戻ってきた騎士に先導され、宿に入る。

 宿の給仕が入ってきた客に挨拶しようと顔を向けたが、3人組のうち1人の騎士を見て固まった。

 セリアは軽く挨拶を送り、先導する騎士に連れられ、宿の階段を上り、来訪者の取った部屋へ向かった。部屋の扉にノックすると中で物の落ちる音が聞こえたが、すぐに扉は開き、男が出迎えてきた。

 

 セリアが宿の部屋に入って、目に入ってきたのは奥の窓前の椅子に男が座り、寝たふりをしているが起きてそうな気がした。

 まずは勧められるがままにセリアが長椅子に座り、その隣に騎士が座る。対面となる椅子に招いてもらった男が座った。その間も奥の椅子で寝ている男は動かないが、対面の者はそのまま進めるようだった。


「まずは自己紹介から致しますか。まず私は王都の商業組合から来ました視察官のキースと申します。あちらは護衛に付いている者です。」


「では私も。貧民街のシリア商会を立てたセリアと申します。今は弱小商会ですから、商業組合に相応しくないでしょうし。お気になさらず。」


 セリアは自分たちの立てた商会が商業組合に必要性がない事を牽制として出す。その一言で対面する男は言外に『関わりたくない』と幻聴が聴こえて肝を冷やしていた。


「いやだなぁ、別に気にしてませんって。今回あなたに会いに来たのは、商会の事と、チャール公爵との関係で来ただけです。」


「まぁ。答えられる事ならば、なんでも答えますわ。ただ私の家事情は遠慮しますが…」


「大丈夫ですよ。では商会をなぜ立てたのですか?この領にも商業組合はあるでしょうし、あのような土地に開いては誰も来ないのではないでしょうか?もしよろしければ…」


「いえ、それは結構ですよ。こちらは固執してませんからね、加盟する気はないです。それにアグレス支部の方は強引な上、決断力が強いので面倒…いえ苦手なので。」


 キースはセリアからの言葉の圧に押される。これ以上は危ないと判断したキースは、もう一方の話を始めた。


「…えっとでは、チャール公爵様との関係をお聞きしてもよろしいでしょうか?何分あちらは公言しては無いので、こちらも分かっていないので。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る