第7話


 朝を迎え、侍女に学園に向けた手紙を3日ほど遅らせて出すように言い含めて渡した。

 朝食を済ませた後、商会へ行く支度をする頃にローナが戻ってきた。

 ローナは大急ぎで帰ってきたらしく、髪が乱れ、侍女服は変えたようだが、顔色が悪い。

 侍女長にローナを任せ、料理長に粥を作ってもらう。侍女長はローナに護身術や護衛術を指導していたので、ローナの体調の改善は早かった。もちろんのことだが、侍女長同伴で報告を聞くことにした。


「お嬢様、ご心配をお掛けしました。ただいま戻りました。」


「ええ、こんな状態で悪いのだけど報告を聞かせてくれるかしら?まだ交渉には時間があるから」


「…はい。王都の商業組合まで行ってきたのですが、グラレス領の噂より違う方面で問題が起こっていました。」


「…何かあったかしら?王都には随分と戻ってないから分からないのだけど」


「お嬢様が知らないのも分かります。問題が起こった時期は最近ですから。なんでも学園を担当していた宝石商のタニアさんがオークションで出した宝石を大貴族が買われたようで、そのいった金銭を普段は店か商業組合に預けていたのです。それが今回は庶民や教会に寄付をしたり、周辺の商店と手を組んで何かを作っていたようです。それに気が付いた商業組合の上方の人が少人数で乗り込んで、『不正をしているだろう。』と訴えたそうですよ。」


「まあ。あの方も大変だったでしょうね、よく学園に居た頃は助かっていました。」


 勿論、セリアは知っていた。宝石商のタニアにオークションで大貴族を釣り上げ、こちら側に引き寄せるように伝えたのがセリアだったからである。しかしここでは知らなかったフリをする。


「…その訴えが商業組合と知っても、訴えを拒否した貴族がいました。今回のオークションで宝石を買った貴族です。それも今回は相手が悪かったようですね!なんと言っても爵位が公爵でしたから」


「…そうなの。その宝石を気に入ってもらえたのかしらね?」


 セリアは爵位を聞いてタニアが下手を打たなければ良いがと心配している事も知らず、ローナの話が続く。


「そうなのでしょうね。それで訴えが取り消される前に、公爵が先手を打ったそうで。訴えの賠償を請求したそうですよ。しかも商業組合がギリギリ払えるか払えないかといったくらいの金額だったらしく、その場で泡を食ったそうです…」


 セリアは公爵が生真面目そうな賠償の請求という言葉を聞いて、複数の貴族候補から1人だけ思い至ってしまう。


「ねえ、その公爵って家名は分かるかしら?」

 

「はい。お嬢様がお知りになりたいと思い、抜かりなく調べておきました。えっと…、チャール公爵家のコリン様という方です。」


「…(まさかコリン公爵様、ですか。)」


 セリアが学園で成績が良いからと聞きつけ、公爵家が依頼してきて、子爵令嬢であるというのに『次期当主のベルトンに勉学を教えてほしい』と言ってきた事が記憶に新しかった。

 それも謝礼が子爵どころが伯爵でも手が届かない物を用意していたので、何度か交渉しても聞き入れてくれないことに嫌気がさして、『条件を呑まないなら手を引く』と伝えれば大人しく従ってくれたのであった。

 その際に願ったのは困った事があるときに手を貸してくれればと口約束をして、御子息に勉学をある程度教えた。それをどう間違えれば、そうなるのか分からなくなってくる。


 その思考で一時止まっていたが、気にせず話し続けるローナに聞き入る。


「…それでですね、お嬢様。何か約束をしていたのでしょうか。情報収集の調査をしていたら、公爵様に『セリア様の侍女だ』と見破られて捕まってしまいました。でも屋敷に入れられた後、侍女なのに歓待していただいて、かなり給仕に気を遣われて困ってしまいました。一応、お嬢様が領地にいる事は伝えた上で、領地での商業組合の話とかしたら、王都でのことを知らせてもらえました!」


「そう…」


「それと、お嬢様にですが。公爵様が手紙を送ってもらいたいようなのですが、どういたしましょうか?」


「まだ先にしましょう。今は来訪者の交渉が先だからね。それに今送ったところで、領地に公爵様が来ては屋敷内で私の身が危険ですから…」


「ですよね…」

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