第1話


 グラレス領でセリアによって始まった商会であったが、これに父・ガロアは関与しておらず、またグラレス家に仕える侍女によって一言も情報が漏れることはなかった。

 他に知られるリスクがあるのはセリア寄りに忠誠を誓っているガロアに仕える執事ジジと、母・セシリア専属侍女のみだった。ジジはセリアが指示を出すまで情報漏洩を防ぎ、セシリアの専属侍女はセシリアに付いているが、領主よりも領地が大事なため何も告げず、普段から社交界に出ること以外は領から出ないので情報統制は楽に済んだ。



 一方でセリアは領主館での情報統制を執事や侍女に頼み込み、商会を貧民街寄りに設営していた。

 表通りや人が主に通るだろう道は商業組合に抑えられ、統合した商店を閉じたのと同時に商業組合が契約内容による剥奪で住居ごと奪い去り、その土地は商業組合による冒険者に向けた商いが催されてしまった。

 そうして出来上がった商会の設営は商業組合の管轄外に建てることなった。その商会では今、バンダナを頭に巻いて長い髪を隠した少女、セリアが立っていた。


「…お嬢様」


「ここでは商会長、ね」


「すみませんでした、商会長。門番の情報では冒険者が6人来るようです。念のため門番に頼み、門前で商店について告知するように指示を出してあります。」


「ご苦労様。こちらも農地で育った穀物と武器屋で扱っていた物を準備させているわ。なんとか鍛冶屋にあった物はほとんどガラクタと取り替えられたから施設が整い次第、いつでも始められるわね。」


「その、どうやったのか聞いても、よろしいでしょうか?」

 

「簡単なことよ。商業組合の職員が表から来たから裏口から入って私の護衛隊に取り替えてもらったのよ。お陰で契約内容を説明している間に終えられたってわけ」


「そうですか、後でお礼をお伝えしないと、ですね。(きっと、お嬢様が無理を言ったのだろう)」


「ええ、頼んだわ。それじゃ、シリア商会を始めましょう」


『はい!』


 侍女の質問にセリアは簡単に言うが、実際は関係各所への確認作業によって執事が動き回っていたのは言うまでもなく、侍女長を始めとした侍女も当主と婦人にバレないように行動することで疲労困憊であった。


 その間も何も知らない当主は書類決済に明け暮れ、見習い執事にも仕事を押し付けようとしていた。執事に置いて行かれた見習い執事は恨めしそうに執事を思いながらも当主の手伝いをし続ける。確認作業がひと段落ついた執事は見習い執事に会うと、泣き付かれてしまった。

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